王朝のかさね色辞典 (染司よしおか日本の伝統色)

著者 :
制作 : 福田伝士  染司よしおか 
  • 紫紅社 (2011年12月15日発売)
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『日本の色辞典』、『源氏物語の色辞典』に続く色辞典、第3弾。

前2冊同様、著者らが染めた色の辞典である。
この本では、布ではなく、紙を染めている。和紙は布より染まりにくく、繊維も切れやすい。が、元本としたのが『薄様色目』(1812年)という古書であり、薄様は手紙やそれを包む和紙を指すため、和紙で再現してみたとのことである。
上記書は色刷木版が付いていて、色の保存状態もよかったそうだ。ここを手掛かりに王朝のかさね色に迫ってみたのが本書である。現代にも続く、日本人の色彩感覚のルーツを探る試みとも言える。

『日本の色辞典』にも述べられているように、元となる色もそもそも色とりどりである。かさねはそれらを組み合わせたものなので、多種多様な色あわせが可能になる。
色選びは「季に合いたる」が身上とされる。いかにもその季節にあったものを選ぶのが、感性が優れている証になる。
それぞれのかさねには、春ならば「早蕨」、「牡丹」、夏ならば「若竹」、「萱草」、秋ならば「萩」、「朽葉」、冬ならば「枯野」、「松の雪」といった風雅な名が付いている。しかもかさねは同じ名前であっても幾通りもあり、同じ「紅梅」でも着る人・使う人の感性で、濃い色を用いたり、青味のある色と取り合わせたり、自由度の高いものだったようだ。

著者はあるいは元本にしたがい、あるいは自らのこれまでの研究から、元本とは少々違う色を選び、和紙を染めている。
そもそもは現物を多くの人に見てほしいとのことだが、手間の掛かる植物染めであり、和紙を染めたにしろ、布を染めたにしろ、高価でもあるし、大量生産が不可能でもある。次善の策としてこうした本を製作しているとのこと(この本自体もそうそうお安くはないが)。

季節にあった色合わせを考え、色に雅な名を付け、それを染めさせ、鑑賞し、批評する。
そんなことはやはり戦乱の世ではできないよなぁとしみじみ思う。よかれ悪しかれ、これは「暇」「ゆとり」がなければなしえないことだ。

お正月、こんな本を眺めながら、王朝の優美を思うのもちょっとよいかもしれない。


*「紫」と「二藍」はどちらも紫色だが、「紫」は紫根を使い、「二藍」は藍と紅の二色を混ぜたもの。「二藍」は二色を混ぜるため、赤味が勝るものから青味が勝るものまで、グラデーションがある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 美術
感想投稿日 : 2012年12月29日
読了日 : 2012年12月29日
本棚登録日 : 2012年11月23日

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