日経サイエンス 2016年 03 月号 [雑誌]

  • 日経サイエンス (2016年1月25日発売)
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特集は「子どもの脳と心」。
赤ちゃんが潜在的に大きな言語能力を持つことがわかってきているが、言語を身につける上では、社会的交流を伴う必要があるようだ。生身の話者から言葉を掛けられた場合と、ビデオを見せられた場合では、聞き取り能力の発展に格段の違いが生じるという。
10代、思春期の子は、時として、「不機嫌製造器」と陰口を言いたくなるような不機嫌さを示す。その一方で、異常に「ハイ」になることもある。エネルギッシュで無鉄砲なことをするかと思えば、妙に落ち込んでしまうこともある。それにはその「内部事情」がある。
10代の脳は子どもの脳とも大人の脳とも異なる、過渡期の脳だ。脳領域間のネットワークを形成するこの時期は、「可塑性」を持つ時期でもある。年齢とともに領域観の接続は増加し、やがて強化されていく。どの領域間にどのような接続を作っていけばよいのか、この先の人生のためにはどういった対処を選ぶのか。この時期の脳は、トライアンドエラーを繰り返し、徐々に方向性を決めていく。大きな可能性を秘めるが、また一方で、脆弱性をさらけ出す、そんな時期でもある。思春期特有の脳の発達が徐々に明らかになりつつあり、こうした研究は、どこまでが見守っていても大丈夫な行動で、どこからが危険で手助けを必要とする状況なのか、見極めの手助けをすることができるかもしれない。
子どもの伸びやかな吸収能力は、「可塑性」から来ている。特に学習が集中的に進む時期は「臨界期」と呼ばれ、ぐんぐんと物事を学んでいくことができる。成人期になった人でも、時折、幼少期の可塑性が見られることがあるという。こうした時期をうまく使えば、高い集中力で学ぶことができるだろうし、こうした時期を模倣することができれば、神経疾患などの治療に役立てることも可能かもしれない。ただ、もちろん、こうした模倣には危険も伴う。可塑性があるということはまた脆弱性を持つことでもあるからだ。最悪の場合、自己意識そのものが損なわれかねない。
詰まるところ、独り立ちしようと思えば、どこかで「大人」になる方が合理的だ、ということか。

古生物学から「恐竜を滅ぼした小惑星衝突 プラスアルファ」。
大型恐竜の絶滅は小惑星の衝突によるところが大きいというのが、現在主流の見方だ。この記事では、その大枠には同意しつつ、そこに至るまでに、緩やかに滅びの序章が始まっていたとしている。出土する化石を詳しく見ていくと、どうやら小惑星衝突より前に、種の多様性が失われつつあったようなのだ。特に草食恐竜が減りつつあり、食物連鎖が脆弱になっていたと考えられる。そもそも肉食獣の食べ物が減っていたところに大災害が起き、絶滅に至ったというのだ。
だが、そのおかげで哺乳類の繁栄の基盤が築かれたともいえる。歴史にifは禁物だが、小惑星が衝突したとしても、草食恐竜が十分にいたら、今頃、人類は生まれていなかった、のかもしれない。

医学から「病原体ナノセンサー」。
感染症の蔓延を食い止めるには、まずは早期の診断が重要である。だが、現在の診断法の多くは一般にある程度の時間を有する。試料に含まれる病原体のDNAがごく微量であるためだ。著者らのグループは、複数の病原体を、わずかな試料から迅速に検出できるセンサーの開発に取り組んでいる。シリコン基板に半球状の微小構造を取り付け、そこに別々の病原体をつり上げる複数の「釣り針」をくっつけることで、効率よく判定できる見込みが立ってきている。さらなる改善がなされれば、医療現場で実用化される日も遠くなさそうだ。

パイを切り分けすぎると1つの切れは小さくなる。それを地でいくのが、天文学の記事「米国の望遠鏡ウォーズ」。
現在、天文学者グループは大きく3つに分けられる。カーネギー研究所、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学システムのそれぞれに属するグループだ。
発端は、富豪のカーネギーとロックフェラーの反目に始まる。ライバルだった2人は競って巨大望遠鏡を作り、それぞれの傘下の研究者たちを支援した。確執は長く続き、両陣営の争いは、紆余曲折を経て、三極巨大勢力の台頭を生む。
現在計画されている大型望遠鏡は直径40mもの大きさに達している。しかし、ライバル陣営が手を組み、資金を集中させて、作られる望遠鏡の数を減らせば、もっと大きな高性能の望遠鏡が疾うに出来ていたはずだという。
競争心は時に、発展も生むが、足を引っ張り合う形になるのは不幸なことだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2016年2月17日
読了日 : 2016年2月17日
本棚登録日 : 2016年2月17日

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