死刑判決 上 (講談社文庫 と 46-1)

  • 講談社 (2004年10月1日発売)
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本棚登録 : 59
感想 : 7
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やっぱりリーガル・ミステリーといえばスコット・トゥローでしょ
他の作品同様、とにかく読み応えがあります。魅力的な人物造形とストーリー展開。車に例えるとフォルムとエンジンのバランスが絶妙で、ぐいぐいと引き込まれるように小説世界へと旅することができます。
彼の作品は概ね法曹三者(弁護士、裁判官、検察官)が主要な登場人物となり、犯罪に巻き込まれたり加担したりと、だからといって、業界の暴露話に終始したり、法廷シーンが前面に押し出されるわけではなく、彼らないし彼女らの私生活へ深く入り込み、法律にかかわる人間の心理や葛藤を描写する手際よさに、僕なんかは感心するわけです。
リアルに感じるから?なぜ、訴訟社会のアメリカでない日本でこれまで生きてきて刑事事件なんかとは全く無縁で、その手の接点とはいえば多くの人と同様にテレビや映画、そして読書といったフィクションを通じてしかないのに?
それはともかく、本書の原題は“Reversible Errors”。これは法律用語で「破棄事由となる誤り」という意味で、控訴審で一審判決を大いに覆すような重大な誤りを指します。
10年前レストランで3人の男女を撃ち殺しさらに死後強姦までしたとして死刑判決をうけたロミーが、執行の33日前になって無実を訴え出る。彼の公選弁護人に指名されたアーサーは始めはおざなりに仕事を進めるが、がんを宣告され余命間もない事件関係者による爆弾証言によって死刑囚に冤罪の可能性が高まる。
ロミーを逮捕し自白を引き出した刑事ラリー、公判担当の検察官ミュリエル、有罪の判決を下した元判事のジリアン。主要な登場人物の内、ラリーとミュリエルは10年前の事件当時不倫関係にあり、30歳半ばのアーサーは独身で女性に対しては不器用ながらも愛を求めて止まず、今回の控訴審に際して知り合ったジリアンと恋仲になる。
この二組のカップルを中心に物語は展開し、種々の駆け引きや嘘と本音の混在、裏切りと懐柔といったいくつもの事実が入り乱れて、それらは決して真実へ向けて収斂することなく、犯人は宙づりにされたままとなります。誤りは確かにあった。かろうじて正義ははたされる。果たしてそれがまっとうかどうかは意見の分かれるところでしょう。  

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2012年11月22日
読了日 : 2012年11月3日
本棚登録日 : 2012年11月22日

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