マリー・ホール・エッツのデビュー作。松岡享子訳。
挿絵は版画。動物たちがじつに生き生きと描かれている。
家族のなかで、としとったペニーさんだけが人間。彼はとても貧しく、「今にも壊れそうな小屋」に住んでいる。毎朝、石ころだらけの道を通って、町の工場へ働きにいっている。
ひとりめの家族が老馬のリンピー。競馬馬のように脚に包帯を巻いてもらいたいがため、いつも右の前脚をひきずって歩く。
つづいてとてもきれいな目のムールーという雌牛。面倒くさがりで食べ物を咀嚼しない。
そしてスプロップという雌のヤギにパグワックというブタ。子ヒツジのミムキン、めんどりのチャクラック。オンドリのドゥーディー。
ペニーさんの稼いだお金はみんな動物たちのエサに消えていく。さてある日、柵の扉が壊れていたがために、動物たちはぞろぞろと外に出てしまい、隣の「雷じいさん」の畑を荒らし回ってしまう。
ペニーさんが帰ってきたあとでおとなりさんは言う。
獣たちをぜんぶ自分によこすか、うちの畑を耕して石と雑草をのぞき、毎日牛乳を届けろ。
しかし働きに出ているペニーさんにそんな暇はない。
落ち込むペニーさん(ぜったいに動物たちを責めはしない)を見た動物たちは、自分たちでその仕事を担うことにする。
(動物たちが夜な夜な働く様子が、一枚の真っ黒な版画で示してあるのが可笑しい)
無事仕事を終えた動物たちは、「働く喜び」を見出す。それまで怠け者だった動物たちはペニーさんの土地まで耕してしまう。
みんなで町の市場へいき、「すきなもののタネ」を買い、畑に蒔いた。こうしてペニーさんの畑は、町でもいちばん美しい畑になる。
こうして、ペニーさんと動物たちの幸せそうな暮らしが描かれ本作はいったん閉じる。というのも嬉しいことに「ペニーさんもの」は3部作だそう。
ところで、ペニーさんたちが食べ物のタネだけでなく、ヒマワリやパンジーやバラの苗、ヒヤシンスまで、必ずしも必要でないものを買ったところでジンときた。金銭的な余裕はないはずなのに。
本作に登場する動物も、読んでいてもはや戦争捕虜の象徴としか見えず、ペニーさん自身の境遇も、当時の貧しい生活を強いられた人々の姿を反映しているのだろうけれど、
そうした解釈抜きでも、上の畑荒らし事件をきっかけに動物たちが働く喜びを見出し、それがペニーさんにも伝染し、みんなで手に入れたささやかな幸福のかたちは、紙上で発散されるこの幸福感は、当時の読者の心をもいかばかり温めたことだろう。
たとえ貧しくとも働くことがあくまで喜びでなくてはならないという強いメッセージが伝わってくる絵本だ。しかし見落とせない意外と重要な点は、それだけでなく、動物たちがまったく反省していないということのすばらしさだと思う。
- 感想投稿日 : 2022年7月22日
- 読了日 : 2022年7月22日
- 本棚登録日 : 2022年7月22日
みんなの感想をみる