吼えろ道真 大宰府の詩 (集英社文庫)

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  • 集英社 (2022年10月20日発売)
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道真の太宰府ライフに危機?

京から役人が来る。流人の道真が唐物商に出入りして目利きをしている暮らしがバレては一大事と頭を抱える小野葛根。京から来る役人は宮廷に献上された品が贋物だったことを調べに来る。もしかすると義父・小野葛絃が危ないかもしれない。世話になった伯父のためになんとかこのピンチを切り抜けたい葛根は——。

よく働くのは誰のためだろう。孤児を雇い育てていた善珠、ケチと名高い唐物商の老婆・幡多児、「うたたね殿」龍野保積、人のよい外見に鋭さを隠す小野葛絃、京から調査に来た藤原俊蔭、太宰府の衛士・三百樹、そして菅原道真、小野葛根。それぞれが自分の守りたいもののためにそれぞれの働き方で働いている。家族のため、子どものため、かつての自分のため、天皇のため、太宰府のため。

しかし道真は看破する。人は誰しも自分のために励むのだと。誰かに窮地を救われたとしても、その厳しい境遇を生き抜くのは自分の力に頼んでのことなのだと。書で身を立てたいと願う阿紀の無邪気さに葛根は苛立つが、道真はどのような境遇にあっても奪われない知識や技能の大切さ、そしてその力が自分を誇り高く強く生きさせることを示した。

史実によれば道真の太宰府生活は長くない。京に残した妻に向けて漢詩を作った道真。その真意はこの物語ではひとつのプライドとして描かれる。この道真がどのような最期を迎えるのか、物語の終焉を見届けたい。

阿紀の正体(将来?)に気付いたとき、思わず声が出た。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 913: 小説. 物語
感想投稿日 : 2022年11月6日
読了日 : 2022年11月3日
本棚登録日 : 2022年11月3日

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