三匹のおっさん ふたたび

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年3月28日発売)
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本棚登録 : 7002
感想 : 917
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有川浩による還暦過ぎてもカッコいいおっさんたちの物語第二弾。
本作は清一の息子・健次の妻、貴子の物語から始まる。学生時代に出来婚したため、社会人経験がなく、前作でもバカ高い買い物をして痛い目にあった貴子。一念発起してパートに出るようになるが、職場で浮いた存在になり、人間関係に悩む。この話では三匹はほとんど活躍の場を与えられず、むしろ祐希と早苗がいい味を出している。
この貴子の話でもどうしようもない大人の姿が描かれているが、本作に共通しているのは登場人物にどうしようもない人たちが少なからずおり、三匹もやりきれない思いをどうすればいいか悩むシーンが盛り込まれていることである。前作でも受験の憂さ晴らしとうそぶいて動物の虐待に走る中学生が描かれたが、本作では不法投棄をしても悪びれない大人や、何もしていない人をいきなり頭ごなしに怒鳴りつける大人など、実際にいそうでかつどうしようもない人が登場する。よく、現実は小説よりも奇なりというが、こういう人が周りにいると迷惑極まりないだろうなと思ってしまう。
しかし、そういうある側面では苦い真実を物語に織り込みながらも、祐希と早苗の関係のようにほっとできるエピソードも盛り込まれていて、嫌な気持ちが最後まで引きずられることはない。いわゆる勧善懲悪現代的時代劇感はやや薄れ、派手な立ち回りも前作に比較すると少なめだが、その分登場人物の心理描写や背景を深く掘り下げた描き方をされていて、三匹もより魅力的に感じられる。
付録的に収録された潤子の物語も、前作で祐希と早苗を振り回した当人にもこんな少女時代があったのかと少しホロリとする物語だった。作者の雑草フリークぶりも垣間見え、それもまた微笑ましい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2014年12月3日
読了日 : 2014年12月1日
本棚登録日 : 2014年12月3日

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