危機の地政学 感染爆発、気候変動、テクノロジーの脅威

  • 日経BP 日本経済新聞出版 (2022年10月4日発売)
3.71
  • (5)
  • (11)
  • (11)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 178
感想 : 14
5

安定して知的刺激を与えてくれる良書。斬新さは無いがポイントを押さえており、社会課題の復習にも有効。次の10年では、米中対立、気候変動、人間の生活を変える技術が問題になるだろう。より、深刻化していくという警鐘だ。

アメリカの分断の話。中国に対抗する政策でも、アメリカの左派と右派の意見が一致しなくなっている。もはや、富裕国では大卒資格がなく製造業で働く人は、中産階級の生活に手が届かない。不平等は拡大する一方だ。どの国もグローバリゼーションがもたらした歴史的恩恵から排除された人々があまりに多く、結果的に世界各地で一般市民が暴動を起こし、それにつけこんでポピュリズム派の政治家たちが台頭している。

アメリカでは1979年から2016年にかけて、所得分布の上位1%の平均所得が226%上昇する一方で労働者階級と中産階級の所得は横ばい。上位10%がアメリカの富の70%以上、上位1%の資産総額は下位50%の資産総額が上回っている。

製造業やサービス業の仕事が低所得国へアウトソースされたため賃金が低下した。労働組合による団体交渉が機能していない。教育費が高騰し、高等教育に手が届かなくなっている。にもかかわらず高収入には大卒のステータスが必要。生まれた時から、ツンでいる。世界中、そんな感じだ。新たな奴隷の構図。構造的利権は、結局奴隷を生み、その支配者が構図を壊さない。

更に酷い話。2010年の最高裁の判決で企業や外部団体が選挙に無制限に資金を注ぎ込めるようになり、以来10年間で選挙に流れる金額は加速度的に増えている。2020年の大統領選では2016年の政治献金から2倍以上に膨れ上がった。その資金の出所の多くは富裕な個人や企業で、彼らはその見返りを政治家たちに期待。つまり国全体に犠牲を強いてでも、自分たちの利益を優先して欲しいのだ。

金持ちが政策を操作し、自らの子孫を再生産。高等教育を受けられない下々のポジションを固定して、支配者階級で居続ける。

対して中国。アメリカは一隻に80機の戦闘機を搭載できる原子力空母を11隻保有している。今もなお世界各地に通常戦力を投じることができる唯一の国。一方、中国は空母を2隻保有するだけでアメリカに比べれば、はるかに小さい。またアメリカは世界40カ国に軍事基地を構えているが中国のほうはわずか3カ国。人民解放軍の活動範囲は、ほぼ東アジアと東南アジアに限られている。アメリカやロシアに対抗できるほど大規模な核兵器の開発はされていない。

世界金融危機の震源地はアメリカ。アメリカが融資をきちんと規制しなかったために、世界各国の金融機関を巻き込んだ連鎖反応が起こり世界経済に大損害を与えた。新型コロナウィルスでは中国が震源地。

二つの震源地。それらが持つ内部事情、課題。格差問題は日本でも危うい。社会主義は正義か。それは分からぬが、強欲は間違いなく正義ではない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年9月7日
読了日 : 2023年9月7日
本棚登録日 : 2023年9月4日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする