岩井克人「欲望の貨幣論」を語る

  • 東洋経済新報社 (2020年2月21日発売)
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「貨幣とは貨幣であるから貨幣である」という貨幣の自己循環論法。なんだそりゃ。小泉進次郎が言いそうなトートロジーでもあり、早口言葉のようでもある。しかし、これが真理なのだろう。ただ、若干の補足が必要だ。

お金を使うことは、お金自体に使い道は無いことを知りながら、流通させていることであり、最も純粋な投機とも言える。お金を信じていると言うことだ。貨幣商品説とか、貨幣法制説やMMT論はあるにせよ、本著では結句、貨幣とは、集団幻想として認知され、貨幣という交換価値に帰結する事で貨幣足り得るという主張を採用する。

貨幣の存在を探りながらも本著が面白いのは、アリストテレスのポリス(都市国家)からの掘り下げだ。アリストテレスは、人間は自然本性によってポリス的動物であるとし、共同体全体にとって何が善であるかを絶えず議論し共同体全体の運営に関心を持てるように政治を転換すべきという主張をしていた。アリストテレスにとってポリスとは他者と共によく生きると言う目的を最高に実現できる最高の共同体。

他方、欲求の二重の一致を迂回するために貨幣はが発生した。ポリスを維持するためには貨幣が不可欠である。逆説的だが、貨幣はポリスの持続性を切り崩してしまう力を持っている。貨幣交換が拡大していくと手段と目的が逆転し始めるようになるとアリストテレスは述べる「貨幣が交換の出発点であり、終極目的でもある」。

アリストテレスは自らがポリスの内部に発見した資本主義を〝無限”という悪を求める活動として断罪する。医者には他の人を健康にすると言う本来的目的があり、軍人には戦争に勝利すると言う本来的目的がある。しかし一度資本主義が生まれてしまうと、医者も軍人も貨幣それ自体を増やすと言う決して満たされることのない目的を求める。結果資本主義は、他者と共によく生きると言う目的を最高に実現できる、最高の共同体であるべきポリスから持続性を奪うことにより内部から解体してしまう力を持っている。

貨幣が自己目的化するのは、際限なき欲望の故。また、自らの自由を労働で販売する市民が、他人の自由を奪い自身の自由を守るために貨幣が重要なのだ。複雑化され貨幣に仮託される欲望の一部には、生存本能がある。お金があるから安心だという心理は、その反映だ。以前ぼんやりそんな事を考えていたが、久々にその思考回路をトレース。分かりやすい話だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年2月23日
読了日 : 2023年2月23日
本棚登録日 : 2023年2月23日

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