中国残留孤児 70年の孤独

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  • 集英社インターナショナル (2015年10月26日発売)
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感想 : 5
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アイデンティティクライシス。

自分が何者か分からなくなる。在日コリアンの話で聞いた事がある言葉だったが、成人近くになるまで中国人として育てられ、日本語など覚えていたかも定かでない中で、日本人だと告げられる。中国では日本人として虐められ、日本では中国人として蔑まれる。人の繋がりも属す国家も揺らぎ、本当の親兄弟も分からず、しかも分かった所で、では何故見捨てたのかと疑心暗鬼。最悪な孤独だ。

山崎豊子の『大地の子』を読んだ時に、残留孤児の悲惨なドラマに触れた。女性差別も相俟って、強制的な結婚、身勝手な奉仕強要に身体を痛める。本著でも似たような生い立ちを窺わせる女性も登場するが、中には、子供のいない中国人の両親に優しく育てられたというケースも。そうだろう、身勝手に日本人の娘を手に入れた中国人が、その子に態々、日本人である事を伝える道理が無い。子なしの親が我が子とする。つまり、帰国した残留孤児の発言は、比較的〝良い中国“に偏る。勿論、中には故郷を見ずして亡くなった奴隷扱いの悲惨なケースもあっただろうと想像される。

我が子一人だけ、何故外地に残したか。比較的、女性が多い。著者は、この点に疑問を感じ、更に、自らソ連兵に身を捧げ陵辱される事で家族を守った女性についても触れる。戦争引き上げ時の凄惨なシーンだ。こうした体験を経て歴史の延長にいる我々は、果たして、お互いに許し合えるのだろうか。考えさせられる本だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年10月9日
読了日 : 2022年10月9日
本棚登録日 : 2022年10月9日

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