鉄路の果てに

著者 :
  • マガジンハウス (2020年5月21日発売)
3.68
  • (8)
  • (20)
  • (20)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 199
感想 : 23
4

初老版『深夜特急』by沢木耕太郎
ジャーナリストの清水潔氏と小説家の青木俊氏によるドタバタ鉄道旅行記。いや、本来はそういう読み方ではなく、戦争を巡る日本とロシア周辺の歴史を辿る旅でもあり、重々しいテーマを取り扱ったものだ。しかし、それを2019年にタイムトリップして当に現代を旅するものだから、まるで意識したかのような〝戦争と今“のコントラストを表現した名著。楽しく読める分、凄惨な歴史が沁みるような仕立てと言えるかも知れない。

「だまされた」亡き父の書棚、一冊の本に貼り付けられたメモ用紙。本の表紙には『シベリアの悪夢』、ミステリー小説のように始まる物語は、清水潔のお家芸。この〝読ませる文章“、開始から終わりに一本のドラマを敷くストーリーテラーでもあるジャーナリストとしての表現力が著者の魅力だ。しかし、結局、何がだまされたのかは、本編とあまり関係ない。シベリア抑留そのものが確実に騙されているし、戦争自体が民間人には国に騙されたとも言える。或いは単に私的な悔恨かも知れない。

著者の筆力に頼り、そして青木センセイの奔放さ、人間力を放ち、旅が続く。ぬるい酒、不味い飯、強引な車掌、そしてほの暗い歴史。いけいけシベリア鉄道ボストーク号。本筋とズレるが、本著で改めて、文章には細部の数値が大切だと再認識。数値により厳しさの度合い、規模感、歴史の順序が伝わってくる。

下記にメモ書きしておきたい。

万里の長城は東端の山海関まで6352キロ、ウラジオストクからモスクワまで走るシベリア鉄道は9300キロ、日本が1889年に開通させた新橋・神戸間の東海道線は600キロ。
 
1959年になってからハルピン郊外で大慶油田が発見。1973年には日本人が試掘していた場所の近くで遼河油田が見つかり、中国は戦後世界第6位の原油生産国へ。

日本が朝鮮半島に敷設した鉄道は1435ミリ幅。ロシア軍が敷設した東清鉄道は1524ミリ。この違いは本編でも触れられるが、重要なポイントの一つ。

バイカル湖はアジア最大の湖で首位は2100キロ。面積は九州と同じ位。深さは世界一で1673メートル、透明度も世界一。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月26日
読了日 : 2023年8月26日
本棚登録日 : 2023年8月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする