紛争屋の外交論 ニッポンの出口戦略 (NHK出版新書)

著者 :
  • NHK出版 (2011年3月8日発売)
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伊勢崎賢治さんの新しい本、『本当の戦争の話をしよう』を読むまえの、旧著によるウォーミングアップ。『国際貢献のウソ』に続き、もう一冊読んでみる。

ご自身の経験をふまえて戦争と平和を語り、拉致問題、領土問題、沖縄の基地問題、日米同盟といったテーマで、これらの外交問題の打開策を論じている。

前後して、映画「ミルカ」を見て、『インド独立史』をはじめインドとパキスタンの分離独立についての本を読んで、それらの本に掲載されていたインド亜大陸の地図もよくよく見たので、伊勢崎さんが"紛争屋"として入った初めての現場「民族間対立に端を発した暴動の絶えないインドのスラム」(p.8)での住民運動オルグの話は、そういうのの根っこに分離独立があり、イギリス帝国の長いあいだの支配があるんやなーと思った。

▼1947年。ガンディーの夢は、「一つのインド」としてのイギリスからの独立でした。
 その夢もはかなく、イスラム教徒はパキスタンとして、「ヒンドゥー」インドから分離独立。以来、カシミール領土問題に象徴されるように武力対立が続き、ついに両国は、暴力装置の極致である核兵器の保有国となりました。敵国インドの脅威は、パキスタンを極度の軍政化と、イスラム原理主義に向かわせます。
 冷戦時代、ソ連のアフガニスタン侵攻に対して、アラブ諸国とアメリカ・西側諸国は、隣国パキスタンをベースに、一致団結してアフガン聖戦の戦士たちを支援しました。ソ連撤退後、パキスタン軍部は、アフガニスタンにインドの手が伸びるのを恐れ、急進的イスラム原理主義を標榜するタリバン政権の樹立に暗躍します。そのタリバンは、国際テロ組織アルカイダと結びつき、国際社会から孤立。アルカイダは、運命の9・11同時多発テロを引き起こし、アメリカの報復攻撃が始まりました。
 アメリカはパキスタンを脅迫します。このままテロリストを支援するのか、と。パキスタンの軍事政権はコロッと態度を変え、アメリカ軍への協力を表明。これに起こったのが、タリバンを支援してきたパキスタン国内の原理主義勢力です。更なる過激化に火がつき、アフガン問題を通してアメリカを、カシミール問題を通してインドを敵と見なす彼らは、パキスタンを国際テロリストの温床にしてしまいました。インド最大の人口を擁するムンバイでも、既に大勢の市民がテロの犠牲となっています。犠牲者が出るたびインド国民は、「パキスタン憎し」で熱狂し、「非暴力」の故郷インドを、排他的なナショナリズムに駆り立てます。(pp.11-12)

第一章の「紛争屋が見た「戦争と平和」」では、"貧困と援助のマッチポンプ"という小見出しでは、こんなことが書いてある。貧困対策は、ほんとうにその貧困をうむ仕組みを何とかするものなのか。

▼紛争の原因が貧困だというのは正しいかもしれません。しかし、だからといって貧困対策をすれば紛争が起こらなくなる、というのはちょっと無理があります。今、人類が持つ貧困対策には、社会変革のニーズが内戦という形で臨界点に達するような状況に対処する能力は到底ありません。機能するとしたら、臨界点に達するずっとずっと前の平常時でしょうが、マッチポンプの構造がある限り、その実効性を議論するどころか、われわれ国際社会の介入は、貧困を生む悪政を逆に助長しているといわざるを得ないでしょう。(p.33)

「正義」というやっかいな問題と戦争のこと。正義の聖戦はあるのか?

▼正義同士のぶつかり合いが、戦争です。…(略)…「ある国が圧政によって民衆を苦しめているから、その国の政権を(多少の民間人の犠牲が出ても)やっつけなければならない」という正義は、戦争開始の大義名分となるのです。また、宗教国家から見れば、神が正義かもしれませんが、人は神を守るためにも平気で人を殺します。(p..39)

巻末には宮台真司との特別対談「ソフトボーダー」が収められている。ここで伊勢崎さんは、パラダイムシフトをしようと、その構想を語っている。

▼「ソフトボーダー」というのは、直訳すれば「やわらかな国境」。概念的にいえば、「主権意識の緩和」。つまり、領土の「占有」から「管理」へのパラダイムシフトです。互いに実益をとり、それを分かち合うということです。…(略)…現代においてもっとも合理的な紛争予防は、無駄な敵を創出しないということです。
 …(略)…これからは、実益の見える「予防外交」、つまり、今までは「戦争は儲かる」だったけど、これからは、「平和のほうが得」ということを、観念論でなく実益論として展開したい。(pp.179-180)

尖閣も竹島も北方領土も、双方の国で管理していくという共同統治の方向を打ち出し、天然資源も共同で開発し、管理していけばよいと。ココはウチの場所や、いやこっちの領土や…というモメごとを起こすより、よほどクレバーで妥当な紛争予防論だと思うし、"国益"にもかなうと思うが、日本の政権はこういった考え方を理解していないのだろう。

この4年前の本で語りあっている2人は、いまはコミュニケーションの実績を積んでいく時期だというのだが、その後の状況はコミュニケーションの実績どころか、モメごとを挑発してんのちゃうんかと思えてしまう。

この本を読んで、『国際貢献のウソ』をもう一度読みなおしてから、『本当の戦争の話をしよう』を買ってきて読んだ。

(2/3了)

※脱字
p.162 アフガニスンで自衛隊員として活動する以上
  →アフガニス【タ】ン

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 図書館で借りた
感想投稿日 : 2015年2月24日
読了日 : 2015年2月3日
本棚登録日 : 2015年2月3日

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