使える語学力 7カ国語をモノにした実践法(祥伝社新書) (祥伝社新書 426)

著者 :
  • 祥伝社 (2015年7月2日発売)
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感想 : 12
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著者の経験談と、専門家や多言語学習者の知見がバランスよく記載されていて、最終章以外は納得して読み進めることが出来た。文法がいわば方便であるという説明は、非常に納得する。私が英語学習に躓いた最大の原因は、方便だとわからず、悩んでしまった点にあったからだ。英語の語感が身に付いてくると、話したい内容を積み木のように積み上げるだけで話せることに気づくのだが、学校ではただの方便を絶対的なルールとして教え込んでしまっているせいで、一生英語を話せない人間を量産している。最終章は明確な論拠の示されない主張が多く、視点は面白いと感じても納得感はない。ESL研究の書籍を読んだことがあれば、真新しい情報は少ないかもしれないが、学習のポイントがコンパクトにまとまっていて、全体的には良書である。

<1.初級からの学習法>

外国語を使えるようになるには、3つの大原則がある。

1.音声を覚える
2.言葉の使われる状況を覚える
3.能動的に学習する

入門書は、初級文法と発音の規則を網羅しているものを選ぶ。音声付のもの(大原則1)で特定の状況での会話例の載っているもの(大原則2)がよい。

能動的学習をするためには、内的動機付けが必要になる。親や社会から押し付けられるような外的動機付けでは、動機の対象がなくなった途端に学習をやめてしまったり、内容を忘れてしまう(テスト、受験目的の学習の弊害)といった現象が起こる。まずは具体的な動機(目的)を探すことが重要である。外国人の日本語学習者にはアニメをオリジナルの言語で楽しみたいという目的を持つ人が少なくない。

ロンブ・カトー氏いわく、週に10~12時間は学習しないと上達はしないという。これぐらいの学習を数ヶ月続けていれば、大きな進歩を実感できるだろうと著者の橋本氏も考えているようだ。

<2.会話力をつける>

マルチリンガルの人は2つ目、3つ目以降の外国語からは初級の段階から話すことができる。「外国語で話す」というのがどういうことか理解しているからである。実際に話せるようになるためには、話す感覚を養うことが大切で、学校の英語学習に足りないのはそれである。大原則の3つ目である、能動的な学習が出来ない点に問題がある。会話は能動的に質問したり、相手の言葉に対応したり、話題を展開することで成り立つが、学校の英語学習では、そのような術を学べない。最初からすらすら話せるわけではなく、話すことで言葉の使い方がわかってくるのであって、知識を蓄え、「完璧話せるようになってから」話そうというのでは、いつまで経っても話せるようにはならない。ネイティブと直に話すことによって、彼らのよく使う表現を知ることが出来るのである。会話では、ネイティブでも関係代名詞を使うような複雑な文章を好まない。つまり複文は単文にして分けて話すのがよい。

<3.リーディングについて>

書き言葉に用いる構文は話し言葉より複雑で、語彙も豊富になる。リーディングによる学習では、書き言葉のリズムと語彙の習得を目的とする。地の文と会話文の両方が出現することから、小説による学習を行うのがよい。ラジオ講座を半年行なった程度の文法理解でも、本を読み始めることは可能である。どうしても意味がわからなければ、後で調べる。語彙は電子辞書で調べ、重要度の高いものは覚える。市販の単語帳は捨て、自分の単語帳を作る。英英辞典から引用したり、自分で文章を作り、それらを書き込んでいく。自分で文章を作るのは、アウトプットする行為であり、外国語学習で重要といわれるリハーサル訓練である。

<4.文法について>

言葉が先にあって文法はそれを合理的に説明しようとしているにすぎない(帰納的文法観)。学校で教えられている関係代名詞の説明(2つの文章を組み立てなおす)はいわば方便であり、実際には日本語と同様、頭から順番どおり語を並べているだけである。仮定法は高級な文法ではなく、よく使われるものである。Ifの後が「can」であれば直接法で、単なる仮定である。「could」であれば、非現実の仮定であると話し手は考えていることになる。suggest、require、recommendなどの提案する意味を持つときのthat節の後ろの動詞が原形をとるのは、shouldが省略されていると考えるからである。

我々は母語の論理に従って考えているため、母語がいつも論理的で、他の言語を非論理的と捉えてしまう。英語にはアジア系言語にある類別詞がない。だからといって我々の言語の方が優位かというと、問題点もあり、例えば「○ヶ国語」という言葉の意味するところは、日本人が1つの国に1つの言語しか存在しないと捉えているということであり、我々の認識と表現の幅の狭さを示している。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 外国語学習
感想投稿日 : 2016年5月9日
読了日 : 2016年5月8日
本棚登録日 : 2016年5月8日

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