文庫裏表紙の粗筋からは全く内容が想像できないまま読み始めた。まさか六本足の妖怪豚に泣かされるとは…
この作品を楽しめるかどうかは、マブイと妖怪、そして人外の存在よりもアクの強いオバァなどの登場人物、また沖縄方言の入り交じる会話文に馴染めるかにかかっている、かも?いっそ金髪碧眼のエルフやトロルのファンタジーの方がお馴染みかと。
出身が八重山なので、方言を挟んだ会話やマブイやニライカナイなどの「世界観」は問題なく理解でき、逆に誇張されたメチャクチャ感が前半のうちはたまらなく面白かった。後半においては誇張とも感じず入り込んでいて、喫茶店で読んでいる最中ふと目に入った女性の顔が(島のオバァでなく)ナイチャーであることに一瞬驚いてしまうほど、生まれ島に帰っている感覚だった。
神話と民話、歴史と現代、空想と(あの島における)現実がごちゃ混ぜに作り出す渦が強烈すぎて、あの土地で生まれ育っていない人からするとどう感じられるのか、想像できない。
ストーリーや人物紹介は他の人にお任せします。現地人のわたしにとってこの作品は、フィクション小説というより民話だった。八重山が現代においても民話を生み出し得る空間で在り続けているという「特異性」の再確認と感謝だった。
島を出て直に十年、わたしのマブイはもうヤマトに根を張っているのか?まだあの島に在るのか?第三番目の灰色の領域が懐かしい気持ちもあり、それではいけないと叱咤する気持ちもあり…。
ヤマトンチュからするとマブイの概念はユニークかもしれないが、自己の基盤や帰属意識とすれば、「落とした」つまり自己の内部に欠けた状態が続けば「生きて」いくのが苦しくなることは感覚的に理解しやすいかと思う。
兄弟の作った美しい覇龍船が海を漂う様を、五十嵐大介さんの挿し絵で見てみたい。
- 感想投稿日 : 2013年10月23日
- 読了日 : 2013年10月23日
- 本棚登録日 : 2013年10月19日
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