アタラクシア

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  • 集英社 (2019年5月24日発売)
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「結婚」
それは守られた城なのか、囲われた檻なのかー。

世間一般的に結婚=祝福であり、誰も眉をひそめて「これから大変だね、せいぜい頑張って」とは大抵言わないはずだ。
とはいえ「結婚は人生の墓場である」なんて言葉は誰だって一度は耳にしたことがあるだろうし、既婚者の愚痴は日頃からよく聞く話、芸能人の不倫だ離婚だとスキャンダルが後を絶たないのが人の世だ。

どんな理想を描き、実際どんな結婚生活を送っているかは人それぞれ。理想と現実のあいだで、心穏やかに暮らしている人はどれほどいるのだろう。

「アタラクシア」というのは、ギリシャの哲学用語で心の平静という意味。本作の登場人物は皆アタラクシアを求め、承認欲求や存在意義、つまりは生きていく意味を求めてもがき足掻いている。

結婚生活で満たされず平静を保てない時、人は、新たな居場所を見い出し逃げ場にするのかもしれない。
シーソーの片側がどこまでも落ちていくのを感じた時、もう片側に乗り上げるように逃げる。
どちら側にも傾き過ぎてはダメ。
アンバランスでとるバランス。
砂上のような地で砂漏に埋もれないように、逃げ惑って這い上がって息をするような人たち。

誰もが孤独にまみれて「理解されたい」「愛されたい」と欲求にもがき交錯し、結婚相手への期待や要求は一心に過度なものとなっているのかもしれない。

いくら生涯を共にしようと決めた相手だろうと、互いが互いの全てを理解し満たすことは不可能だ。
ましてや、その相手本人が原因でえぐられた傷や、ぽっかりと空いた穴であるのならば尚更のことだ。
たとえ理解しあえない状況下でも、暴力を振るわれようがモラハラを受けようが、結婚相手以外に手を差し伸べては、それは「不貞」なのだ。それが結婚制度。

そのような括られた結婚制度の中、自分の置かれた環境で、自分がどう在るべきか。
肯定するわけにはいかない「不倫」が、平静も不安定も、良くも悪くもある意味では影響を及ぼしている様を、圧倒的な筆致で見せられたような気がした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年10月5日
読了日 : 2021年6月23日
本棚登録日 : 2021年6月23日

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