イスラーム文化−その根柢にあるもの (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店 (1991年6月17日発売)
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1991年(底本1981年)刊。著者は慶応義塾大学名誉教授(元イラン王立研究所教授)。

 タリバーン、オスマン・トルコ、ムハンマド、現代イラン(イラン革命)、サダム・フセインとバース党、石油とメジャー、イラ・イラ戦争や湾岸・イラク戦争、そしてイスラミック・ステート。
 かように、日本で刊行されるイスラム関連書でもテーマは多岐にわたるが、その骨とも言うべきはイスラム教だ。
 一方で、その教義や解釈、歴史的過程や社会的影響は実は地域と時代に応じて多義的であるが、報道等ではステロタイプ的な視座が解消されない。

 本書はイスラムの多義性を前提とした上で、イスラムに一本の串を指すかの如き解読指針を付与していく。
 しかも、絶妙な包丁捌きで行なう解説が簡明かつ秀逸。まず、
① イスラム社会の脳とも神経系とも言えるイスラム教に触れた後、
② 社会での骨格とも筋肉系ともいえるイスラム法と倫理にメスを入れ、
さらに
③ 外面を素描した②と対極の内面・精神面に考究の筆が及ぶ。

 本書を初めに読むのもよし、幾つかイスラム関連書を読破した後に幹を入れるべく読破するも良し。何とも使い勝手の良い良書である。


備忘録。
① イスラム法は神による命令・禁止規範。が、規範としてコーランは不明確。ゆえに禁止規範の内容を論理的に確定すべく、西欧的三段論法とは異質の論理性=命令法に関する文理解釈・論理解釈・勿論解釈などの考究が精緻を極める。
② メッカ(前半)とメディナ期(後半)でコーランの立ち位置が大きく違う。これが後世イスラム教義の違いに関わる。
③ 神の一元的・絶対的価値の尊重
→⑴ 神の御手が全てを差配し、原因・結果のような因果性を否定。
 ⑵ 神の前の平等の強調と、神の絶対性(一方的権利・命令主体)と人間の無力さ(一方的義務主体)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 研究書
感想投稿日 : 2016年12月23日
読了日 : 2016年12月23日
本棚登録日 : 2016年12月23日

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