タックス・ヘイブン――逃げていく税金 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2013年3月20日発売)
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表題から「ケイマン諸島等にペーパーカンパニーを作り、主たる活動拠点での脱税を図る企業の暴露本」と思って読み始めると、豈はからんや①海外取引ある法人(多国籍企業が主)や富裕層の脱税(節税という美辞麗句が腹立たしい)に加え、②マネ・ロン、③投資銀行や証券会社が仕掛け、個人・中小企業へも勧誘の手が伸びるデリバティブ取引の問題、④90年代以降の金融資本主義の亢進の結果、バブル崩壊多発の意味、⑤租税回避地確保を目論む金融センターとこれを支援・利用する国や諜報機関(英シティが代表格)の跳梁跋扈等多岐のテーマを叙述。
著者来歴と徴税側へ偏頗した内容とみる読メレビューには首肯するところ大だが、その問題を承認しても読むべき価値はある。◆つまり、昨今、世界各地で頻発するバブル崩壊事案をまとめ、富裕層や法人の租税回避行動という本書のメインテーマにおいて、中間層の重税感を強める結果、税の所得再分配機能への反発(貧困層のみならず、老人福祉維持への反発を含む)だけでなく、中間層没落の要因という視座も見受けられる。故に「資本主義という謎」の良い補完・補充に。◆かつ、広義のデリバティブ取引の本書の問題意識は同感。
買手に標榜する高金利が、高リスクを購入者・消費者に転嫁させる対価にすぎない事実を明快に示している点だ。◆加え、外交・安保からも見逃せない。米英諜報機関の跳梁跋扈は勿論、北朝鮮問題・アルカイーダ(恐らくイスラミック・ステートも?)の資金洗浄、日本の財産(株・土地等)をヘッジファンドに購入される問題(円安はこれを加速)等、集団的自衛権のゴリ押しよりずっと重要かつ喫緊の課題を提示。◆確かに本書はさわりだが、問題意識獲得に個人的に有益だった。◆2013年刊。元大蔵省主税局国際租税課長、元金融監督庁国際担当参事官。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年1月24日
読了日 : 2017年1月24日
本棚登録日 : 2017年1月24日

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