日中戦争下の日本 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社 (2007年7月11日発売)
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感想 : 5

2007年刊。本書が日中戦争当時の一面を描いたものであることは否定しない。特に、30年代後半の各政党・議員の合従連衡、社会大衆党の意義、この時期の農民・労働者・女性の地位向上については説得力を持つ。ただ、本書にある大衆意識の前提として、当時、発禁処分となった情報、思想、検閲の実態について説明がないと、大衆意識が持つ意味、評価、限界を知りえない。この意識を検閲や発禁処分等、為政者が、ある方向に誘導したか否か、あるいはその範囲を検討しなければ、大衆意識が現実政治に及ぼした影響・功罪を論じられないはず。
残念ながら、著者の書籍にはこの視点が欠落している感が否めない。また、戦場下の中国国民の困窮・差別を実地に見聞した現場日本兵に、彼らに対する惻隠の情が事実として存在していたとしても、結局は、この心情と政策上の理念とが乖離し、中国人も日本兵を解放軍等とは認識しなかったとなれば、先の兵士の感情は何ら政治的力がなかったこと、あるいは多数派とは到底いえなかったことを雄弁に語っているのではないか。そういう印象を持ってしまう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年1月19日
読了日 : 2017年1月19日
本棚登録日 : 2017年1月19日

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