中国「反日」の源流 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社 (2011年1月13日発売)
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感想 : 11

2011年刊。著者は京都府立大学文学部准教授。


 タイトルだけを見ると、内容を誤解・誤導しかねない書である。
 なるほど本書執筆は2005年の「反日暴動」を契機としているようだが、それは、社会構造とその差が、社会制度・政治権力の差を生み、さらに対外姿勢の齟齬を導く。その夫々が相互の理解不足・イメージの歪曲や誤解を齎し、対立を重ね、何れは破局へ…、という懸念に基づいている。
 そもそもこれは歴史的事実ではなく、情緒と印象のレベルに止まるにすぎない。
 ところが、かようなイデオロギーに彩られた相互認識(相互誤認)が、民衆一般のみならず、政治家・官僚、さらに立派な知識人にも及んでいる。

 著者は、かような現状認知を危ういものと真摯に捉え、好悪の感情を越えた歴史的事実の認識の構築に誠実に取り組むことを歴史研究者のあり方と捉えている。その結果生まれた本書は、タイトルから伺える「反日」「嫌中」本とは一線を画しているのだ。


 詳細は、本書を紐解いてもらいたいが、まず、社会制度と経済システムにおいて、明朝の頃から大きく道を違えてきた日中(一国閉鎖完結型経済の日本。多様な物産輸出が可能だった清朝は、国土広大と人口多の社会統治を、民衆とは離隔した立場で展開)は、西欧の衝撃への取組みでも異質であったことを前提とする。
 そして、「倭寇」のイメージと、これに豊臣秀吉の朝鮮出兵・対明戦争のイメージを被せ、このような全体認識を踏まえた対日観を、大陸では清朝期以降、ずっと底流に保有しているという見方を提示する。つまり中国共産党の近々の政策的煽動に「反日世論」の原因を求める考えとは一線を画しているのだ。


 ただ、本書の主テーマは、実は反日の源流への回答ではない。
 つまり、近世から近代(=江戸期から日清戦争の頃。特に江戸期・清朝)における、日中の社会制度・経済システム、そして権力機構とこれら相互連関が生み出した両国の差異を比較・対照し、特に中国のそれを開陳しようと試みる書と言える。

 著者は「近代中国史」という新書を著しているが、これを読破した時と同様、非常に刺激的な読後感であった。
 そもそも両国の社会・経済システムの比較。それが帰結する両国の近代への道程の異同を克明に検討した書はさほど多くはない。しかも、歴史研究者らしく、きちんと先行研究に拠りつつも、そこでは触れられていない視点や事実を多く開陳することで説得力を増加させているのは、本書の買いの部分であろう。

 ただし、民衆と権力機構の離隔が中国(清朝以降、現代までか?)の特徴と言いつつ、権力機構の反日視点の発生要因のみを言及し、それが権力から離隔した民衆に波及した理由や要因についての言及は余り多くない。

 まぁ、この点が、本書をして、中国の、特に中国民衆の反日発生の要因論ではなく、近世~近代の日中の社会・経済制度比較。あるいは権力の特徴に関する日中比較・検討をした書と考える所以なのだが…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 研究書
感想投稿日 : 2018年4月16日
読了日 : 2018年4月16日
本棚登録日 : 2018年4月16日

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