時計の社会史 (中公新書 715)

著者 :
  • 中央公論新社 (1984年1月1日発売)
4.10
  • (8)
  • (7)
  • (6)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 92
感想 : 14

1984年刊。著者は和歌山大学経済学部教授。◆時計には様々な種類が存する(日時計、水時計、砂時計)が、歴史的転換を促したのは機械時計。これを生み出した西欧(特に英国)自身の社会変容と、時計が流入した東洋(日中)の変容を、西洋中世史学者が読み解く。前者は①中世最晩期、大洋航海中の経度測定のために正確な機械時計を必要。②不定時法から定時法。時間概念の画一⇒時間が賃金の算定基準⇒時間の拘束という労働観の変容(産業革命という時代に適合)へ。日本では不定時法を変えないまま、時法に合わせて機械時計を改良する方向へ。
つまり、日本は、根本的なルールを変更できないまま小手先の技術的変容で満足。他方、中国は皇帝用の装飾重視の工芸品と化し、一般に普及しないのは勿論、社会的影響が僅少であった、とのこと。この点、時間の意味の歴史的変遷という観点から見て、①英国での近代的労働観に時計が与えた影響と、②日本の江戸時代、それも、元禄期においてすら既に広範に一般普及した時鐘によって「時間の公共性」が社会的に実現していた。この特殊な社会の存在が、後の近代的雇用制度を労働者側で受け入れられた、一つの社会的要因と看做す点は興味を引く。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年1月23日
読了日 : 2017年1月23日
本棚登録日 : 2017年1月23日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする