2004年刊。
著者は大正大学人間福祉学科教授。
「笑ウせぇるすまん」の喪黒腹蔵ではないが、「こころ」とは不可思議だ。
全ての人が有しているはずだが、その共通項を括りだすのも不可能に思えるほど。それが明瞭に現れるのが、心の病と健常性との連続性である。
本書は精神科医でもある著者が、不登校・統合失調症・自閉性障碍を素材にして、病の観点から心の問題を見つめようとする書である。
あまり纏めようとはしていない本書につき、要約は容易ではないが、心(病を含む)が環境応答の産物であり、環境とそれへの応答は共に多義的かつ個別的であって、それが明敏に見えてくるのが、心の病かどうかの境目が分明ならざる点ということは理解できる。
とはいえ、本書をみても掴みどころがないなという感慨しか生まれなかったが…。
もっとも、本書自体も問題がないではない。
心の病に関し、認知(枠組や特性)が疾病に影響をするということは踏まえているようだが、その認知を生むのは脳の感覚器官から入った情報が起因である点は分析的ではない。捨象しているわけでもないが、殆ど何も語らない。
人間が受け取る情報とその脳内と対外応答とを捨象する。いわば情報入手に関しマクロ的に見て、殊更考慮因子から除外しているよう。
そうなると情報受領とその応答のダイナミズム。この動的側面が過少となり、何とも概括的、外形的な、また静的な病因分析だなぁとは思わされた。
例えば、自閉性障碍において高い不安緊張にあり、また感覚過敏が顕著であるという。
しかし、どういう感覚過敏なのか、高い不安緊張を生むことと感覚過敏の内実との関係性は?、長期にわたる感覚過敏が認知枠組みに与える影響など、全く言及がない。
が、ここにメスを入れねば、自閉性障碍児に対する療育方法として注目を集めるTEECHプログラムの如き、環境調整の正しい有り方(例えるなら、眼鏡の度数の合わせ方)を個別具体的、かつ科学的に提示することはできないだろう。
まぁ未だ測定手段ないのかもしれないが…。抽象化に馴染みにくい。
- 感想投稿日 : 2018年4月29日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2017年1月4日
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