“読めば呪われて死に至るホラー小説”と、それを手にしてしまった5人の人物(+著者自身?)の運命を描いた連作ホラー小説。

【以下、かなりネタバレ気味ですので未読の方はご注意を】

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最終章の著者(無論フィクションだろう)以外の登場人物はほぼ“本の結末に書かれた通りの”死を迎えることになる。それも最も望まぬ形で、絶望を味わいながら死を迎えることになるわけで、その点では殺され方云々とは別の意味で「あまりにも無惨な話」でもある。
仕掛けや意外な展開を見せるなどの趣向も凝らされて愉しめるのだが
「読んだらなぜ呪われるのか」
「読んでも何も起こらない人間がいる理由は何か」
「身体中に御札を貼った“ゆうずどの化物”とは何物のか」
「なぜ呪われた人間だけに化物は見えるのか」
「呪いを解く方法はあるのか」etc……
といった謎はみな場外投げっ放しジャーマンなのが何とも、う〜ん(個人的な意見)。
そういった解決編まで書いてしまうと恐怖度が一気に落ちるという判断で、最終章をああいう形にしたのもモキュメンタリー仕立てが流行りだからなのかな……などと下衆の勘繰りをしてみたり。
そういったことも……作中作である「ゆうずど」が20数年前に“角川ホラー文庫”から出版されていたこと、著者のPNはその作家の名に因んだこと等々のメタフィクション的お遊びも含めて、怖さの演出として十分愉しめるものではあるのだけれども。

【3/9追記】
「読んでも何も起こらない人間がいる理由」については最終章である程度明かされていた。ま、これがわかったとしても呪いが発動していた時点で既に手遅れだが。

2024年3月7日

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読書状況 読み終わった [2024年3月7日]

時は20世紀初頭、東欧のとある架空の帝国。博覧強記の医学、法学他"何でも博士"のエステルハージが遭遇する奇妙で不可思議な事件や騒動の数々と、その顛末を描いた連作短編集。1976年の世界幻想文学大賞(短篇集・アンソロジー部門)受賞。

……と内容を強引に要約してみたり、あるいはタイトルの"事件簿"、帯書きの"博覧強記の名探偵"という文言に、一見超自然的、非合理的に思える事件を、エステルハージ博士がゴーストハンターよろしく知識や知力を駆使して謎の解明と合理的解決を導き出す快刀乱麻の活躍……なんてものをつい予想してしまうが、さにあらず。
博士がいろいろと動いてる内に事態の方で収束してしまったり、最終的に"何もしない"ことを博士が選択するなんて話が続く。後半では解決に導く探偵役を全うする話もあるのだが。

現在の東欧に存在したという設定のスキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国という架空の帝国が主な舞台となっており、20世紀初めという時代設定にありながらオカルトや疑似科学、妖精や錬金術といったものが存在し、登場人物らも自然に受け容れているという、スチームパンク的な要素も帯びたSFとファンタジーがミックスされたような世界観のように自分には感じられた。
ペダントリ―に彩られ様々な視点や場面が目まぐるしく入れ替わる表現は入り込むまでがややこしいが、読み進めるうちに著者はキャラクターよりもこの世界自体を描きたかったのではないか、そうして愉しみながら書いていったのではないかとも思えてくる。ちなみに某所にて「この作品は事件簿というよりも博士の日記と思えばいいのでは」というコメントを聞いて(あ、なるほど)と何か腑に落ちた。
連作短編集ではありつつも―解説でも言及されている通り―巻頭から順に読むことが望ましく、またどれか1編を取り出してアンソロジーに収録しても意味がない(強いて言うなら最初の「眠れる童女 ポリー・チャームズ」くらいか)という点で、この1冊丸々で一つの作品と考えるべき、だろう。
1970年代にアメリカ人の著者が、20世紀初頭の東欧に架空の帝国を造り、それを舞台に書いた物語というのも改めて興味深い。

2024年3月17日

読書状況 読み終わった [2024年3月17日]
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江戸ことばに関する随想から得意の怪談、明治期の落語から歌舞伎論、さらに“半七捕物帳”誕生のきっかけとなった人物との邂逅エピソード等々を記した随筆集。とにかく小気味良く読み易い文章で、百年前を生きた人物が書いたものとつい忘れそうになる。
岡本綺堂と聞くと、『半七捕物帳』あるいは『青蛙堂鬼談』をはじめとする怪談、さらに欧米怪奇幻想作品の翻訳など作家、翻訳家としての印象が強いのだが、巻末の年譜を見ると劇作家(新歌舞伎)、戯曲家としての仕事も非常に多作だったことがわかる。もっともその年譜は綺堂没後間もない昭和14年の雑誌「舞台」に掲載されたものなので、当時は作家よりも戯曲家としての名前が通っていたのかもしれない、が。
中盤の「明治の寄席と芝居」の章では、当時の歌舞伎や演劇への批評が延々と続き、その辺に門外漢な自分には少々退屈ではあったが、劇作家として活躍していたことがわかると、ここまで詳細に記してあらすじから演出、役者の演技にも細かく言及しているのも頷ける。

三遊亭円朝の「牡丹燈籠」が高座で人気を博し、歌舞伎化されてさらに評判を呼ぶのだが、その後高座で人気を呼んだ他の噺が次々と舞台化される流れが出来ていくにあたって(原作者である)噺家と劇作家、役者との間であれこれ起こるのは、つい先日のある事件を少し思い起こし、この手の問題は昔からあるものなのだなと感じたり。

2024年3月15日

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読書状況 読み終わった [2024年3月15日]

本書を含むシリーズ『14歳の世渡り術』の対象読者層が中学生以上なので、内容も―この執筆陣としては―若干の手心が加えられた感はあるものの、執筆陣自体は言うなれば―いささかズレた喩えかもしれないが―今年のNPBのオールスター第1戦のスターティングオーダー級の顔ぶれで、とてもジュニア向けとは侮れない。

掲載作品を5W1Hでカテゴライズし、編者が各々の作品の後に添えた解説もなかなかの読み応えで面白い。ホラー小説はそれなりの数を読み込んできた―という多少の自負はある自分でも“なるほどなあ”と目から鱗が落ちるような記述もあったり。

10代からこれだけのアンソロジーを読める今の世代が、正直少しうらやましくもある。

2023年12月30日

読書状況 読み終わった [2023年12月30日]

 ここまで恐ろしい―予想していたものとは全く違う方向で―内容の本とは思ってもみなかった。

 整腸剤や便秘薬に水銀が使われ、皮膚病や化粧品にはヒ素、放射性物質入りの飲料水にコカイン入りワイン、瀉血が万能型の治療法扱いされ、内蔵の瀉血にはヒルを用い、死刑囚の遺体やミイラが薬になり、精神疾患の治療に脳の一部をアイスピックで抉る……と、現在では考えられない薬や治療法のオンパレード。今の常識からすると悍ましいものも少なくないが、人体への研究も理解も、また化学的な知見も未発達な時代と考えると仕方ないことであり、万一でもこれらの治療法や薬剤に出食わす恐れのない現代に生きていることに感謝するばかりで、これが殊更に恐ろしいと言うわけではない。

 本書にはトンデモな治療法や薬と共に、それを患者に用いた医者(似非含め)も登場する。眼前で苦しむ患者をそんな薬や治療法によって救えると信じた医師もいれば、効果は二の次でそれによって得るカネ目当てで喧伝した医者、ニセ医者もいる。そんな詐欺師紛いの輩は現代でも珍しくないが、恐ろしいのは自らの治療で効果より失敗例が多く出ていても、それに目を瞑って固執し続ける医者―特にお偉方―も少なくないということ。プライドの問題で過ちを認められなかったか、患者も実験動物と同じにしか見えてなかったのか、治癒した患者もいる以上それは有効であると疑わなかったのか、何れにしろ失敗された患者はいい面の皮でしかない。

 さらに、現代の医療情報や一般の科学知識に基づき過去の事例を悲喜劇的に扱ってはいるが、それでは現代の医療現場やその他我々の日常の場で用いられている様々な治療法、薬剤、健康法が全て正しいものであると誰が保証してくれるのか。現在当然のように用いられているものが、100年200年の後危険極まりないトンデモなものとして、この手の文献に載ることはないという確証が何処かにあるのだろうか。

 妄想も大概にしておけと怒られるかもしれないが、読了してふとそんなことを考えた途端、この本が本当に恐ろしいと思えて仕方なくなった。

【追記】
・同文庫で2017年に読んだ『世にも奇妙な医療の世界史』(T・ノートン)は、確かにエグい内容も一部あるが、何かマッドサイエンティストものの作品を読んでいるようなところもあってエンタメとして愉しめた感があった。それに比べて本書は……愉しんで読むというにはちょっと遠い。
・第18章「麻酔」で華岡青洲に関する記述が一切なかったことがやや不可解ではある。華岡が(実例の記録が残る)世界初の全身麻酔による手術の成功及びその他の実績は、日本国内の記録のみならず、アメリカ、シカゴの国際外科学会の栄誉館で顕彰されている。著者の1人N・ピーダーセンはジャーナリストだからそのことを知らなかったとは考え難いし、華岡も栄誉と共に多大な犠牲を払っており、その点でも本書の内容にそぐわなくもないと思うのだが。

2023年9月23日

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読書状況 読み終わった [2023年9月23日]

近畿地方のある場所に纏わる怪異とその理由が、様々な媒体、人々、形式によって語られる断片によって徐々に明かされていくモキュメンタリー仕立て。読了後、本棚に並べたくないなと感じた本は久しぶりかも知れない。

一見無関係に思われるエピソードの数々が次第に繋がりを持って怪異の輪郭が顕になっていく展開、そこに関わった人間もまた巻き込まれて行く件はモキュメンタリー仕立てではお馴染みだし、オチもあのJホラーの古典の王道パターンを踏襲してはいる、が無数のエピソードをあたかも“実話ですよ”と感じさせる構成がうまく(目次がないという作りも厭な雰囲気をより演出しているような)、フィクションと頭でわかって読んでいても、どこかで(こんなニュース読んだ記憶ないか?)(そもそもこの●●●●●って何処だ?)と不安が頭をもたげてくる。文章で読ませることで有効になる仕掛けもあって、読中から違和感はあってもラストでやはり「あ!」となる。内容を整理しつつ再読するのも楽しいのかもしれないが……自分はどうも気が進まない。

巻末の袋綴じを開けてしまったからだろうか?

各エピソードにも単体の怪談として中々の怖さを持つものが含まれている。自分は後半部に載った短編「カラオケ」が(もちろん著者の創作だろうが)、実話系怪談で久々に「うわ……」となりました。

2023年10月10日

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読書状況 読み終わった [2023年10月10日]

 怪談社の糸柳寿昭、上間月貴が取材で集めた怪談とその取材プロセス、現場状況を作家の福澤徹三が取りまとめた書き下ろし実話怪談集。今月刊行されたばかりの第4弾。
 
 今回はコロナ禍による各種措置の緩和を受けて取材方法が以前の形に戻ったことで、前巻で目に付いた“実話怪談に練り上げられる前段階の話”よりも、実際の怪異の体験談(の聞き書き)が主となっており、その意味ではオーソドックスな実話怪談本に仕上がっている印象。また前巻のように、怪異よりも取材過程で遭遇した生身の人間の方がよほどおっかない、みたいな話もない。……が、病死や不審死(自殺他)などに日々直面している人達が、それらが起因(と思しき)怪異もすんなり受け入れているような話がいくつかあったりで、それはそれで怖い。

 このシリーズを読んでいて思うのは、収録の半数ぐらいは取材先での初対面の人から聞き出した話で、よくまぁここまで集めたなぁ、と。当然空振りや、聞けたけれど本に載せるほどには使えないといった話も相当数あるはずだから、掲載されたよりもずっと多くの人々に取材を試みたのだろうし、その点でも、とにかく凄い。人見知りな自分にゃとても真似できぬ。

 と同時に、多くの人がそういった怪異なり恐怖なり、不可解な体験をしてるということでもあるのだなと。
 だから日々これだけ実話怪談本が出版されててもネタは尽きないのか!

2023年8月29日

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読書状況 読み終わった [2023年8月29日]
カテゴリ 実話系怪談

失踪した父親(怪人二十面相)を一人娘が捜す―という内容だが、乱歩の猟奇✕駕籠真太郎の奇想でダークな笑いと謎に満ちた?かつ何ともシュールな世界に仕上がっている。乱歩作品の小ネタ満載、この人の漫画としてはエログロは抑え目。
第2巻は気長に待とう、かな。

2023年11月24日

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読書状況 読み終わった [2023年11月24日]

連載スタート期からコミックの新刊が出るのをいつも待っている、自分にとっては癒やしの作品。

……なのだけど、これにて完結なんだろうか。
ヤンマガWeb上の連載も今年4月で止まってるし(本巻の最終話)、内容的にも何か最終回っぽい話だったし……不定期でもいいから、同じような話で構わないから、ずーーーっと続いて欲しいんだけどなぁ

2023年7月20日

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読書状況 読み終わった [2023年7月20日]
カテゴリ コミック一般

「オチョナンさん」的な同じキャラクターによる連作もの、前巻にあったいわゆる“いい話、泣かせる話”などはなく、今回はストレートな心霊譚よりも都市伝説寄りな小ネタっぽい話が中心。

とりあえず「独り遊び」と、窓を少しだけ開けておくのはやめよう……。

2023年7月20日

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読書状況 読み終わった [2023年7月20日]
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農業において「肥料の三要素」の一つであり、食糧生産に直結するという点では石油以上に希少かつ貴重な天然資源であり、それを巡って国際的枠組みまで影響を及ぼしかねないリン。
その一方で、アメリカでは酪農の現場で日々排出される家畜糞と、大規模経営の農業の現場で投入される化学肥料に含まれるリン分により、有毒藻類が大発生し水質汚染(湖沼や河川のみならず海までも)がかつてないほど深刻化している。この矛盾した状態の主体であるリンという元素を巡る現状を述べている。昨年(2023)3月に刊行され、7月に翻訳版が出ていたので情報はかなり新しい。

最終章ではこうしたリンがもたらしている現状への一つの提言?として、日本を含むアジア地域のかつての循環型農法―家畜糞やヒトのし尿を肥料として活用した―を現代の形で見習え、みたいな論調になっているが、そんなものでいいのだろうか?(ヒトのし尿に含まれる薬品成分が懸念材料であることには一応触れてはいるが)。

また日本でのリン汚染の現状はどうなのだろうか、その点も知りたいと思った。

原題はTHE DEVIL'S ELEMENT(悪魔の元素)だそうで、これが即ちリンのことを指しているのだが、邦題の『肥料争奪戦の時代』となると農業や食に関心がある向きでないと引っ掛からないのではないかとも感じた。農業や食の点では無論だが、同時に生態学や環境学の点からもかなり重要な内容だと思うのだが。

2024年5月2日

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読書状況 読み終わった [2024年5月2日]
カテゴリ 医療・農業・食

〈アルゼンチンのホラー・プリンセス〉による12編の悪夢。幽霊や魔女、呪いといったガジェットが登場するゴシック調ホラーに描かれるのは、現実のアルゼンチンが抱える過去の傷と病理。本書全体に漂う倦怠感と閉塞感、絶望、そしてグロテスクなまでに生々しい生への渇望。

・小さな骨を庭から掘り出したことで赤子の幽霊に付き纏われる少女「ちっちゃな天使を掘り返す」。アンヘリータ(ちっちゃな天使)の望みとは一体何だったのか。
・少女たちの憧れと嫉妬が残酷な結果を招く「涌水地の聖母」。この"少女たち"というワードもエンリケス作品の重要な要素なのかも。
・住宅街に現れた酔いどれの老人はゴミを満載したショッピングカートを押していた「ショッピングカート」。呪い以上に怖いのは嫉妬……あるいはそれも呪いだったのか。
・家族旅行からの帰宅後6歳の少女は"恐怖"を知った「井戸」。異様なまでの恐怖心を抱えた少女が辿り着いた悍ましい真相。結末は収録作で最も惨い。
・5年ぶりにバルセロナを訪れた主人公が悪臭に付き纏われる「悲しみの大通り」。スペインも"陽光溢れる国"という顔だけではないということ。
・ホテルの展望塔に棲む"彼女"「展望塔」。正調ゴシック怪談を45度ずらして描いたーといった趣き。

・他人の心音に激しい興奮を覚える女性「どこにあるの、心臓」。フェティシズムの行き着く先。
・異様な自死を遂げたロックスター。熱狂的ファンの少女2人が彼の歌に従った行為とは「肉」。凄惨な聖餐。
・幻覚に苦しむ娘を撮影して欲しいとの依頼を受けた映像制作業の男が映したもの「誕生会でも洗礼式でもなく」。少女のいう"彼"とはエクソシスト的なものなのか、あるいは抑圧された精神によるヒステリーだったのか。
※正直、この3編はどうも好みでないw

・行方不明の子供たちの情報を管理する部署に勤めるメチは、ファイル中の美しい14歳の少女に強い関心を覚える「戻ってくる子供たち」。収録作中最も長い(といっても70㌻弱)作品。アルゼンチンの抱える闇と不条理が色濃く描かれ、現実の恐怖と超自然的要素が相俟って恐怖度は作中随一。
・自宅のベッドで煙草を吸い続ける女性のモノローグ「寝煙草の危険」。"倦み疲れる"という感覚が行間からじくじくと滲み出てくるような表題作は、超自然的要素はないが、本書で描かれた世界の肌触りと臭いを集約しているようにも―。
・友人宅でウィジャボードに興じ、行方不明者を呼び出そうとした少女たち「わたしたちが死者と話していたとき」。いわゆる"こっくりさん"テーマなので馴染みはあるが、半世紀前の軍事政権下で起きた大量の行方不明事件という史実が織り込まれることで、単なる怪談に留まらない怖さを帯びている。

2024年1月16日

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読書状況 読み終わった [2024年1月16日]

本書が実は東海林センセーの文春文庫100冊目。この「丸かじりシリーズ」の週刊朝日での連載も36年というのだからとにかくスゴい。
内容はもちろん安定の楽しさ面白さなのだけれども、今回巻末で解説を書いた(このシリーズ、解説を誰が書くかも楽しみの一つでもある)春風亭一之輔師匠の
「東海林さだおと上野のパンダは“いて当たり前”と思ってない?」
の一言にうむ、確かに、と頷くばかり。東海林センセーも来年には米寿を迎えられるのだものなぁ。近年は大病もされてるし、まだまだお元気でこのシリーズを書き続けていただきたいものだが。

2024年3月25日

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読書状況 読み終わった [2024年3月25日]
カテゴリ グルメ系

最愛の妻と娘に恵まれ平穏な生活を送るフォーリーの秘密の悪癖はネットのAV動画で××することだった。ある日、大ファンのAV女優主演作品に汁男優募集の告知を見つけ、撮影が彼の住む町であることを知って応募する。罪悪感に逡巡しつつも家族の目を盗んで、撮影現場である墓場へ向かうが―。

「Z級ホラー」「超絶エログロ・ホラー」等々の煽り文句に、タイトルからして(あちらではR18作品の1ジャンルを示すスラング)お下劣極まりない内容であることは予想に難くなかったが、実際に読んでみてもその通り、だった。特にゾンビが現れて物語が急転直下する直前までの撮影シーンは「この本、“成人向け”にしなくていいのかしらん」てな描写が続くし、この手の映像作品を目にしたことのない読者……特に女性にとってはスプラッタ描写なんかより遥かに不快なんじゃなかろうか。同性からすれば「男ってやっぱりスケベでバカ(自分含め)」という感想だけども。

その後はゾンビ・パニックものの定番、次々現れるゾンビから逃れつつ家族のもとへ帰ろうとするフォーリーの姿が描かれ、そこにネクロフィリアの老人やらカニバリストの集団、強姦魔のグループ等が登場しては、これまたゴアでナスティな場面が再三挿まれるのだけれども、何というのか……強烈なキャラクターは登場するのにそれが活かしきれていないというか(あっさり死んではゾンビになって復活したりしてますが)。フォーリー自身も複雑な生い立ちをしていること、妻ディアドラも何らかの事情を抱えていたようで、それが2人が出会うきっかけになっていたことなどが序盤で語られており、それが後半の伏線になったりするのかと思いきや、それも特になく。

ただ、大概の作品なら終章の描写で幕を閉じ「あー、やっぱり」で終わってしまうであろうところを、終盤に登場したあるキャラクターの視点で描かれたエピローグ(それを「後戯」という銘打つセンスよ)が加わり、その後のフォーリーと家族の姿が語られている。その絶望感漂う静謐さは本編とは異なる雰囲気で、殊更に何とも言い難い余韻を残す。

ということで結論:良い子は読んじゃダメ!ですが、既婚者男性は戒めとして読んでおいた方がいい、のかもw

2023年4月16日

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読書状況 読み終わった [2023年4月16日]

“厭が満ちる”というタイトルは「家族円満」にも掛けているとのことで家族内、家族絡みの話がやや多いか。改めて言わずともこの人の怪談は常に厭度満載だが。終盤になるに従って話の厭さ悍ましさがさらに加速度を増していくのもお馴染み。

印象に残ったのは、
・その部屋に住むと米の飯が一切食べられなくなる「腐り米」
・一家揃って死に絶える際に異様な長い叫び声が響く家「サイレン」
・公私で失敗や不運が続く男が突如知ったその理由「なるほとね」
・一族の恥として軟禁された妹と、唯一人心を通わせていた姉「姉妹」
・座敷童子と暮らすことを夢見た男がようやく手に入れた家とは「座敷童子に会いたくて」
・知人宅のクローゼットや押入れに封印されていたもの「同情」
・公私とも理想的な父親をある日突然娘が避け始める「どうする」
・娘の胎内記憶で語られた、夫の知らなかった妻の過去「墓場」など
“禍族厭満”だけあって家族内の話も多い。単純な好奇心、あるいは無防備な同情、善意が報われるどころか最悪の、取り返しのつかぬ結果を招くような話が続く。と同時に悪意ではなく己や家族を守るための保身故の行動でも、時にひどく悍しいものになる……という話も。

2023年8月10日

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読書状況 読み終わった [2023年8月10日]
カテゴリ 実話系怪談

「遭遇」「交差」「融合」と銘打った3部立てで、合理的解明が主眼であるミステリと、怪異という非合理的存在を容認する怪談/ホラー、相反すると考えられてきたこの両者が、近現代の日本文学の中でどのように捉えられ、語られ、時に互いを取り込み、変容してきたかが論じられている
……なんて小難しいこと言わずとも、題材に採られてあるのはこのジャンルを好む人なら一度は読んでいる有名作ばかりなので、頭を少々捻りつつも愉しめるのではないかと。

ところで、乱歩が「交霊術」に懐疑的(というよりトリックであるという否定派)だった(第1部第4章)というのは面白い(霊魂の存在自体は否定してはない模様)。そういえば乱歩作品にストレートな怪談、幽霊譚ってなかったような……。

2023年2月21日

読書状況 読み終わった [2023年2月21日]

・ディストピアはフィクションの中のものではなく、現実化しつつあるということ
・ウクライナ紛争をこれまでと違った視点で捉えること
・日本の農、食は本当に危機的状況にあるということ。しかし希望もあるということ

2023年4月24日

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読書状況 読み終わった [2023年4月24日]
カテゴリ 医療・農業・食
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タイトル通りヴィクトリア朝期英国、それもクリスマス限定でなくちょうどこの時季を舞台にした幽霊譚13編。内12編が本邦初訳だそうだが、全体を通しての味わいは期待通りだった。

好みの作品いくつかについて。
・クリスマスの日の情景を描いたエッセー的なC.ディケンズ「クリスマス・ツリー」。ツリーや種々の飾りに纏わる思い出話は次第に昏い色を帯びていき……。ツリーが造り出すクリスマス、そして冬の夜の光と影。

・「海岸屋敷のクリスマス・イブ」E.L.リントン
イングランドの西端コーンウォールの家を購入し移り住んだ若い夫婦。妻は家の管理人ベンリースという男に言い知れぬ嫌悪感を抱く。その後悪夢を繰り返し見るようになり精気を失って行く妻。心配した夫は妻の母親を呼び寄せるが……。
荒涼とした冬のコーンウォールの雰囲気も相俟って何とも陰惨な話。ただし10年以上土中に埋められていた(ネタバレ回避)の描写には少しツッコミたくなるのだが、これもコーンウォールという土地の為せること?

・「メルローズ・スクエア二番地」T.ギフト
翻訳業を営む主人公が借りた一軒家で体験した怪異が綴られるが、風評被害を受けたと家主から訴えられたことに対する弁明―という体で書かれ、明確な解決もないまま新たな情報を求めている……というラストは何となく今流行りのモキュメンタリー仕立てに通じるものがあるようにも感じられる。尊大で何か秘密を知っていそうな不穏な雰囲気をまとう家政婦のキャラクターは「海岸屋敷の~」のベンリースと似たところもあるが、謎が多い分より印象に残る。

・「幽霊廃船のクリスマス・イブ」F.クーパー
沼沢地での鴨猟の最中、廃船で一夜を明かす羽目になった男の体験。
漆黒の闇の中、何か異様なことが起きている物音だけがするという不可解な怖さと、朽ちた船内で酷く不安定な足下と寒さという物理的危機。この二重の恐怖は―明記されていないにせよ―心霊怪談であると同時に“監禁テーマ”恐怖譚の巧みな変奏とも読めるような。

・「本物と偽物」L.ボールドウィン
クリスマス休暇に大学の学友2人を実家に招いた青年マスグレイブ。修道院の跡地に建てられたこの邸宅に幽霊が出るらしいという言い伝えの話が出たことから、幽霊の有無について論争になる3人。否定派のローリーは2人を驚かすある悪戯を企むが。
幽霊の存在について肯定、懐疑、否定の三派に分かれるがそれぞれの主張が面白い。彼らは近所に住む若い姉妹とも親しくなって、どこか青春もののような雰囲気も帯びるだけに、一気に暗転するようなラストが一層効いている。

・「青い部屋」L.ガルブレイス
四代続いて或る名家に仕える家政婦が語る、屋敷内で封じられていた部屋の逸話。
発表されたのがドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズ初期と時代が重なることもあってか、部屋の怪異を解き明かす人物のキャラクターは、ヘッセリウス博士とジョン・サイレンスの間を埋めるゴーストハンターキャラの魁とも読める。それだけに著者の経歴が不詳で作品も少ないというのが何とも残念(著名な作家の別名義ってことは……ないよなぁ)。聞き手(という体の作者)の補足によって怪異の正体が明かされるラストが鮮やかで、その真相もガジェット自体は古典的であるのにどこかモダンホラーに通じている印象。

冒頭の「クリスマス・ツリー」が発表されたのが1850年で掉尾を飾る「青い部屋」は1897年。半世紀の間に発表された作品を年代順に読み進めることで、描写されるヴィクトリア朝の英国人や社会通念、その推移みたいなものを、怪談そのものの変化と共に垣間見れる―ようにも感じられた。

定番として常に店頭で手に取れるようにしておいて欲しい1冊。

2023年12月17日

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"恐怖"という感情はなぜ起こるのか。本来は危険を察知するもの、あるいは不快であるはずの恐怖を、一方でなぜ我々はわざわざ求めるのか。100冊超の幅広いジャンルの文献や絵画、そして記号論を駆使して考察した1冊。

大半がアトリエサード社の雑誌(『トーキングヘッズ叢書』や『ナイトランド・クォータリー』)が初出の記事で、70'sオカルトブームやUFO、日野日出志に中岡俊哉、寺山修司にエヴァンゲリオン、さらには毒親等々採り上げられた書籍は幅広い(NLQに掲載された"怖い絵"的記事も)。それらを集約したうえで、恐怖を生み出すメカニズムと、恐怖が現代の我々にこそ必要であると熱く主張する。

“恐怖”を考察するこの手の書籍はどうも論を捏ね繰り回した挙げ句今イチ消化不良な事が多い気がするが、こちらは遡上に上がる文献やテーマが(特に前半)時代的に一種の胡散臭さを帯びるためか、全体的にポップで肩が凝らない。後半部時折著者の政治的スタンスがチラついて(ん……)となるとこもある、が。

2023年8月19日

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読書状況 読み終わった [2023年8月19日]

“恐ろしくてとても口には出来ない”伝説の怪談「牛の首」他、恐怖と幻想の色濃い15編を収録。
「SFならあらゆる表現が可能」と考えていた著者とあってか、宇宙が舞台の「十一人」「飢えた宇宙」は勿論のこと、収録作の殆んどがSF色が強い。他作家の作品、特に昨今なら現象だけを描写して説明を加えないような不条理な展開でも何かしらの説明なり解釈を加える(但しそれらもトンデモ系なのだが)のもこの作家の味というところか。ちょくちょく艶系な描写が混じってくるのは、収録作が執筆された昭和40年代頃、この手のSF系小説(&発表媒体)の主な読者層が成人男性だったが故の読者サービス、なのかな。
◆印象に残った作品
・朝目覚めた時に自分が死んでいたことを知った初老男の困惑「安置所の碁打ち」はある意味、知らぬ間にゾンビとなってしまった者の悲哀を描いたとも言えるか。
・宇宙船内で乗組員が1人ずつ消えて行く、SFホラーではお馴染みのモチーフ「飢えた宇宙」は、あのモンスターを登場させて“合理的謎解き”にしてしまう力技(悲惨なオチもそこに繋がる)が何とも良い。
・朝、門柱の上に乗った猫の生首というショッキングな描写で始まる「猫の首」。徐々に露わになるディストピアの姿。ちなみに表題作とは何の繋がりもない。
・「牛の首」恐ろしくてとても内容を記すことが出来ない。
・隣室の冴えない青年と同棲し始めたという和風美女「ハイネックの女」。こちらは日本のあの妖怪を昭和の都会に引っ張り出した。
・真冬の寒村の空き地に現れた“窓”に映る熱帯の砂浜と海と真夏の空……「空飛ぶ窓」は不条理で恐ろしいながらもどこか物悲しい。時空に影響を及ぼすほどの個人の強い思い(憧れや怨み)というのも小松作品で度々用いられる。
・道に迷い車も故障した男は廃村のある空き家で暖を取ろうとする「葎生(むぐらふ)の宿」は、“迷い家”テーマかあるいは「浅茅が宿」系のしんみりした話と思いきや、クライマックス前の展開は唖然として爆笑しそうになる……結末まで読めば確かにしんみりするのだが。
・自宅の地下室に穴が開いたと語る同僚。しかも穴は成長し増殖していた(「生きている穴」)。四次元空間に繋がっているような謎の穴。その出現理由を語り手の言葉で一応の解釈は語られているものの、その真相は不明なまま。建物のみならず人や空間にも穴が開いていく様はグロテスクながらなにかシュール。「霧が晴れた時」「夜が明けたら」の系統に連なる作品。

2023年3月29日

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読書状況 読み終わった [2023年3月29日]

単なるファンタジー集でも寓話でも、あるいは奇想小説でも奇妙な味とも違う……否、どの要素も含まれているけれども、何とも捉えどころがない印象。思うに任せぬ人生への静かな諦観と微かな希望、が多くの作品でベースラインに流れてているような(かなりブラックな結末を迎える作品も有り)。

2023年1月24日

読書状況 読み終わった [2023年1月24日]

人が本来安らぎ寛げる場である筈の「家」は、同時に外部から中の状況がほとんどの場合窺い知れぬが故、往々にして妄想や狂気を醸成、濃縮する孵卵器となる、ということか。

見慣れた近所の家々も……いや、考えるのは止めておこう。

2023年2月27日

読書状況 読み終わった [2023年2月27日]

いわゆる"ジェントル・ゴースト・ストーリー"、泣ける怪談的な話が複数あったのが、これまでとちょっと異なるところかな

……この巻も含め、このところ巻末のおまけページで語られる中山氏の近況や周辺雑記みたいな話が、ある意味本編以上に怖かったりする

2022年10月22日

読書状況 読み終わった [2022年10月22日]
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読了はしたものの、この本を十分に味わえた実感が未だにない。
巻末の解説にはデ・ラ・メア作品の視座の低さ、高みからの俯瞰が皆無であることを特徴に上げているが、その一方でどの人物に対しても読み手に感情移入させないように―少なくとも自分には感じられた。加えて登場人物……特に女性(表題作の母親、「伯爵の求婚」の叔母、「シートンの伯母さん」の伯母等)の言葉がどうにも理解し難いのだけれど、女性に聞いてみると「よくわかる」とのことだったので、この辺りのことも含めて男女でデ・ラ・メア作品への印象が変わったりするんだろうか。

何れにせよこの“朦朧法”……作品像が何とも掴み難いということとは即ち、様々な解釈や感想を生む余地や余白であり、それが魅力の一つであるということだけは今回理解できた―ような気がする。

2023年7月23日

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読書状況 読み終わった [2023年7月23日]
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