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エステルハージ博士の事件簿 (河出文庫 テ 8-2)
- アヴラム・デイヴィッドスン
- 河出書房新社 / 2024年2月6日発売
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時は20世紀初頭、東欧のとある架空の帝国。博覧強記の医学、法学他"何でも博士"のエステルハージが遭遇する奇妙で不可思議な事件や騒動の数々と、その顛末を描いた連作短編集。1976年の世界幻想文学大賞(短篇集・アンソロジー部門)受賞。
……と内容を強引に要約してみたり、あるいはタイトルの"事件簿"、帯書きの"博覧強記の名探偵"という文言に、一見超自然的、非合理的に思える事件を、エステルハージ博士がゴーストハンターよろしく知識や知力を駆使して謎の解明と合理的解決を導き出す快刀乱麻の活躍……なんてものをつい予想してしまうが、さにあらず。
博士がいろいろと動いてる内に事態の方で収束してしまったり、最終的に"何もしない"ことを博士が選択するなんて話が続く。後半では解決に導く探偵役を全うする話もあるのだが。
現在の東欧に存在したという設定のスキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国という架空の帝国が主な舞台となっており、20世紀初めという時代設定にありながらオカルトや疑似科学、妖精や錬金術といったものが存在し、登場人物らも自然に受け容れているという、スチームパンク的な要素も帯びたSFとファンタジーがミックスされたような世界観のように自分には感じられた。
ペダントリ―に彩られ様々な視点や場面が目まぐるしく入れ替わる表現は入り込むまでがややこしいが、読み進めるうちに著者はキャラクターよりもこの世界自体を描きたかったのではないか、そうして愉しみながら書いていったのではないかとも思えてくる。ちなみに某所にて「この作品は事件簿というよりも博士の日記と思えばいいのでは」というコメントを聞いて(あ、なるほど)と何か腑に落ちた。
連作短編集ではありつつも―解説でも言及されている通り―巻頭から順に読むことが望ましく、またどれか1編を取り出してアンソロジーに収録しても意味がない(強いて言うなら最初の「眠れる童女 ポリー・チャームズ」くらいか)という点で、この1冊丸々で一つの作品と考えるべき、だろう。
1970年代にアメリカ人の著者が、20世紀初頭の東欧に架空の帝国を造り、それを舞台に書いた物語というのも改めて興味深い。
2024年3月17日
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江戸に欠かせぬ創作ばなし: 綺堂随筆 (河出文庫)
- 岡本綺堂
- 河出書房新社 / 2024年1月9日発売
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2024年3月15日
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ジャンル特化型 ホラーの扉: 八つの恐怖の物語 (14歳の世渡り術)
- 澤村伊智
- 河出書房新社 / 2023年10月26日発売
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本書を含むシリーズ『14歳の世渡り術』の対象読者層が中学生以上なので、内容も―この執筆陣としては―若干の手心が加えられた感はあるものの、執筆陣自体は言うなれば―いささかズレた喩えかもしれないが―今年のNPBのオールスター第1戦のスターティングオーダー級の顔ぶれで、とてもジュニア向けとは侮れない。
掲載作品を5W1Hでカテゴライズし、編者が各々の作品の後に添えた解説もなかなかの読み応えで面白い。ホラー小説はそれなりの数を読み込んできた―という多少の自負はある自分でも“なるほどなあ”と目から鱗が落ちるような記述もあったり。
10代からこれだけのアンソロジーを読める今の世代が、正直少しうらやましくもある。
2023年12月30日
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世にも危険な医療の世界史 (文春文庫 ケ 6-1)
- リディア・ケイン
- 文藝春秋 / 2023年9月5日発売
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2023年9月23日
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忌み地 屍 怪談社奇聞録 (講談社文庫)
- 福澤徹三
- 講談社 / 2023年8月10日発売
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2023年8月29日
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総天然色 バカ姉弟(5) (KCデラックス)
- 安達哲
- 講談社 / 2023年7月20日発売
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2023年7月20日
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不安の種* アスタリスク 6 (6) (チャンピオンREDコミックス)
- 中山昌亮
- 秋田書店 / 2023年7月20日発売
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2023年7月20日
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肥料争奪戦の時代:希少資源リンの枯渇に脅える世界
- ダン・イーガン
- 原書房 / 2023年7月19日発売
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2024年5月2日
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パンダの丸かじり (文春文庫)
- 東海林さだお
- 文藝春秋 / 2023年4月5日発売
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2024年3月25日
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恐怖箱 厭満 (竹書房怪談文庫 HO 588)
- つくね乱蔵
- 竹書房 / 2022年12月27日発売
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2023年8月10日
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〈怪異〉とミステリ: 近代日本文学は何を「謎」としてきたか
- 乾英治郎
- 青弓社 / 2022年12月22日発売
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「遭遇」「交差」「融合」と銘打った3部立てで、合理的解明が主眼であるミステリと、怪異という非合理的存在を容認する怪談/ホラー、相反すると考えられてきたこの両者が、近現代の日本文学の中でどのように捉えられ、語られ、時に互いを取り込み、変容してきたかが論じられている
……なんて小難しいこと言わずとも、題材に採られてあるのはこのジャンルを好む人なら一度は読んでいる有名作ばかりなので、頭を少々捻りつつも愉しめるのではないかと。
ところで、乱歩が「交霊術」に懐疑的(というよりトリックであるという否定派)だった(第1部第4章)というのは面白い(霊魂の存在自体は否定してはない模様)。そういえば乱歩作品にストレートな怪談、幽霊譚ってなかったような……。
2023年2月21日
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ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか? (文春新書)
- 堤未果
- 文藝春秋 / 2022年12月16日発売
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2023年4月24日
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英国クリスマス幽霊譚傑作集 (創元推理文庫)
- チャールズ・ディケンズほか
- 東京創元社 / 2022年11月30日発売
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2023年12月17日
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恐怖の美学〜なぜ人はゾクゾクしたいのか (TH SERIES ADVANCED)
- 樋口ヒロユキ
- 書苑新社 / 2022年11月25日発売
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2023年8月19日
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厳選恐怖小説集 牛の首 (角川ホラー文庫)
- 小松左京
- KADOKAWA / 2022年10月24日発売
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2023年3月29日
単なるファンタジー集でも寓話でも、あるいは奇想小説でも奇妙な味とも違う……否、どの要素も含まれているけれども、何とも捉えどころがない印象。思うに任せぬ人生への静かな諦観と微かな希望、が多くの作品でベースラインに流れてているような(かなりブラックな結末を迎える作品も有り)。
2023年1月24日
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屋根裏に誰かいるんですよ。: 都市伝説の精神病理 (河出文庫 か 17-4)
- 春日武彦
- 河出書房新社 / 2022年10月6日発売
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人が本来安らぎ寛げる場である筈の「家」は、同時に外部から中の状況がほとんどの場合窺い知れぬが故、往々にして妄想や狂気を醸成、濃縮する孵卵器となる、ということか。
見慣れた近所の家々も……いや、考えるのは止めておこう。
2023年2月27日
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不安の種* アスタリスク 5 (5) (チャンピオンREDコミックス)
- 中山昌亮
- 秋田書店 / 2022年9月20日発売
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いわゆる"ジェントル・ゴースト・ストーリー"、泣ける怪談的な話が複数あったのが、これまでとちょっと異なるところかな
……この巻も含め、このところ巻末のおまけページで語られる中山氏の近況や周辺雑記みたいな話が、ある意味本編以上に怖かったりする
2022年10月22日