自殺願望を抱く友人二人を三原山まで同行して火口に投身させた自殺幇助者の鳥居哲代。自殺者と自殺幇助になっていく軌跡をミステリー風に描いた作品。高橋たか子は初めて読みましたが、鋭い文章で構築された本作は物凄い緊迫感に充ちており、圧巻でした。人と人の関係は時として意図しない、本意ではなかった行動へと導く。気が付いた時には自分の役割から降りられない。砂川宮子が死の直前に明かした「私はわかってほしくなかったのよ。誰もわかってくれる人がいなければ、わかってくれる人が見つかるまで、きっと私は死ななかったわ。そうなのよ、あっけないほど、あなたはわかってくれたから、もう私はもぬけのからのように安心したのよ」この真情は解る気がする。死にたい理由を他者にこうもあっさりと理解されると自分が白白と空白になって、生きることに繋ぎ止めていた錘が無くなってしまう。砂川宮子の自殺の理由は切実なものを感じたけれど一方、織田薫の方はぼんやりとした死への憧れだったのではないかと思う。砂川宮子の死を知ってその思いが強まり、また彼女が死ねたのだから私にも出来る、きっと死んでみせる、という競争心。織田薫は本当は死にたくなかった。だからあんなに死の手順に拘り死の条件を必死に整えていたのだろう。最後、火口へと至ったのも自力ではなかった。鳥居哲代は二人の自殺幇助者となることで、自分をも殺していたに違いない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本文学
- 感想投稿日 : 2020年4月15日
- 読了日 : 2020年4月15日
- 本棚登録日 : 2020年4月15日
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