樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 早川書房 (2018年11月6日発売)
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本棚登録 : 1029
感想 : 80
5

まず表紙が素敵。
内容にぴったりだ。
普段見掛けることの多い木々達の話なので想像しやすく、美しい緑色の葉や、力強い幹の茶色、シダーウッドのような香りを思い浮かべながら、気持ちよく読んだ。
想像の中ではミツバチも飛び、キノコや苔が生え、枝を揺らす風も吹いていた。
ノンフィクションではあるけれど、著者が見せてくれる世界に癒された。

なんて理に叶った生き方なんだろう。
ブナもナラも、その他の樹木も、みな長所短所を併せ持ち、工夫しながら、自然界の公平な間引きを受けて生きている。
人類も、少しは彼ら樹木の生き方を見倣ったら良いのに。。。
本書が世界的ベストセラーとなっているのが分かる。
全人類が本書を読むべきとさえ思う。

読み初めて直ぐに、"社会の真の価値は、そのなかのもっとも弱いメンバーをいかに守るかによって決まる"との職人たちの言葉に心打たれた。
生態系のルールは残酷で厳しいこともあるけれど、彼ら樹木同士の関係性は基本公平であり、成長もゆっくりだ。
地球上の生命の新参者である人類は、傍若無人で急ぎすぎているように思えた。

けれど木々たちは、ただゆったりのんびりなわけではない。
公平に助け合い、工夫をし、他の生き物を上手く使い、バランスよく、"過ぎないように"している。
そのルールを守れなかった木々、縄張り争いに破れた木々、それらは傷を負い朽ちてゆく。
それらはまるで、啓発本を読んでいるかのような印象だった。
著者の森への愛情が、木々を擬人化させ、読者である私にも伝わってきたのかもしれない。

森は生きている。
「『森は自分の居場所を自分で理想に近づける』。私たち林業専門家がよく口にする言葉だ。」
木々たちは根や菌糸を通じて情報を伝達し、水分や栄養までも補い合いながら生きている。
それも数百年の単位で。
木々は経験から学習もするのだという。
「これは子どもたちのためを思った教育なのだ。たとえとして"教育"と言っているのではない。林業を営むものは、昔からこの"教育"という言葉を使っている。」
時間をかけて繁殖し、数百年かけて育ち、ゆっくり朽ちてゆく。
私は大きな森に足を踏み入れたことが無い分、その時の刻みに、とてつもなく壮大なものを感じた。
そしてとても愛おしい。

「時間がかかるからといって、生き物として価値が低いということにはならないはずだ。植物と動物にたくさんの共通点があることが証明されれば、私たち人間の植物に対する態度がより思いやりのあるものになるのではないかと、私は期待している。」

読み終えたときに思ったのは、改めて、この地球上の生命体は種別ごとに独立して生きているわけではないということ。
人類だけが心地よく暮らせることばかりを優先していると、回り回って皺寄せが返ってくる。
そんなこと分かっていると思われるかもしれない。
でも手に取りやすい厚みの文庫に、こんなに驚きと共感が詰まっている。
少なくとも私には、知らないことばかりだった。
本書は森林浴をしているかのような心地よさも味合わせてくれた。
著者には森への愛と敬意が溢れていたし、長谷川圭さんの訳も読みやすい。
一冊を通して気持ちよく、森の声を聴くことが出来たように思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年11月4日
読了日 : 2023年11月4日
本棚登録日 : 2023年11月4日

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