銀河鉄道の夜

  • リトル・モア (2009年11月26日発売)
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感想 : 110
5

『銀河鉄道の夜』をゆっくり読むならこの本と決めていて、やっと購入。
美しい!!
清川さんのアートが本書の世界観にぴったりで、奥行きを増していた。
既に所持している『幸せな王子』より、こちらの方がもっとずっと綺麗だった。
本当に素敵。
作品ページも数が多くて、大人も子供も楽しめる。

作中、「天気輪の柱」とは賢治の造語とのこと。
私は太陽柱のようなものを想像した。
ただ、このシーンは夜。
月に虹色の暈が(太陽で見られるように)かかって、そこから柱のように光が降りてきているのかしら?
不思議な光景だ。
その「天気輪の柱」が、ジョバンニを「銀河ステーション」へと導く。
体調が思わしくない母を思う気持ち、戻ってこない父親、学校に通いながらこなす仕事、同級生の意地悪…それらの言いようもない悲しみや、
「ああぼくはその中をどこまでも歩いて見たい」
という願いが、ジョバンニをこのような世界に引き込んだのかもしれない。
あるいは、ジョバンニを気にしていたカンパネルラも。
双方の思いが、銀河鉄道を引き寄せたのかもしれない。

北十字(はくちょう座)のシーンのあと、然り気無く挿入されている「鳥を捕る人」のシーン。
銀河鉄道に乗車してくるということは、この人もまた命を落としているのだろう。
だが、なんだか唐突だ。
「茶色の少しぼろぼろの外套を着て、……赤髭の背中の屈んだ人でした。」
「わっしはすぐそこで降ります。わっしは、鳥を捕まえる商売でね」
ネットで星座図鑑を画像検索した。
夏の大三角形(はくちょう座・わし座・こと座)を横切るように、小ぎつね座があった。
星座絵図では、狐が鳥(ガチョウ)を咥えている。
このことから、鳥を捕る人=小ぎつね座を擬人化したのでは?という説があるようだ。
こんな文章がある。
「鳥捕りは二十匹ばかり、袋に入れてしまうと、急に両手をあげて、兵隊が鉄砲玉に当たって、死ぬときのような形をしました。と思ったら、もうそこに鳥捕りの形はなくなって、かえって、「ああせいせいした。どうも体に丁度合うほど稼いでいるくらい、いいことはありませんな。」」
そして、見るともう銀河鉄道の車両内に戻ってきている。
そのことから、"鳥を捕る人=小ぎつね座の擬人化"と考えるなら、この場面もしっくりくると思えてきた。
小ぎつねが川で鳥を捕っている時に、猟銃で打たれて命を落としたように思えたからだ。
そして「ああせいせいした。どうも体に……」の台詞。
地球上の生態系を守るのなら、むやみに捕りすぎることなく、体に合う分(食べる分)だけ捕るのが良いと説いているように思える。

次に現れる車掌のシーン。
カンパネルラとジョバンニはそれぞれ違う切符を持っている。
カンパネルラは「小さな鼠色の切符」。
ジョバンニは「はがきぐらいの大きさの緑色の紙」。
ジョバンニの持つ緑色の紙は、"三次元からやってきた者が持っている切符"であるらしいこと、
"不完全な幻想第四次の銀河鉄道では、どこにでも行ける切符"であることが分かる。
ジョバンニだけはどこまでも行くことができ、また三次元へと戻ることが出来る、との暗示だろうか。

"鳥を捕る人"が言っていた"幻想第四次"。
ジョバンニも、これが幻想であることを薄々感づいているように思える。
と言うよりは、いつかお別れすること、或いは別れが近いことを感じ取っていたのかもしれない。
急に悲しくなったり、ここからは降りて遊んでいこうと言いたくなったりしている。
ジョバンニは、川へ落ちてしまったカンパネルラとの最後のひとときを銀河鉄道で過ごすのだ。

作中に登場する、鶴や孔雀、インディアンも皆、天の川を取り囲むように位置している星座だ。
蠍が赤く燃えているのは、きっと、蠍座の一等星アンタレスが赤く輝いている星だからだろう。
銀河ステーションを出発した銀河鉄道は、はくちょう座を通り、わし座(鷲の停車場)を通り、インディアン座や蠍座を抜けてサウザンクロス(南十字星)へと向かっている。
ちなみに双子座の隣にケンタウルス座があり、そばにはクリスマスツリー星団も実在していた。

旅の途中、「本当の幸い」「一番の幸い」という言葉が何度も登場する。
賢治の思う本当の幸いとは何だろうか。。。
タイタニック号の沈没事故で命を落としたと思われる青年と姉弟が登場するシーン。
燈台守は言う。
「何が幸せか分からないです。本当にどんな辛いことでもそれが正しい道を進む中での出来事なら峠の上りも下りもみんな本当の幸福に近付く一足ずつですから。」
すると青年も答える。
「ああそうです。ただ一番の幸いに至るために色々の悲しみもみんな思し召しです。」
"賢治の本当の幸い"とは、たとえ命を落とそうと、誰かのためになるのなら…という自己犠牲の心こそが「本当の幸い」であり、それを貫いたものは救われるのだという意味なのだろうか。
彼らの裸足だった足には、いつしか白い柔らかな靴が履かされている。
では、現代を生きる私達にとっての「本当の幸い」とは何だろう。
自己犠牲であるとは言い切れない。
けれど世の中が変わっても、各々の立場や年齢によって、普遍に問われ続けることだろう。
もしかしたら賢治も、読者それぞれがずっと考え続け、ひいては作品自体が普遍的なものへとなってゆくのを望んだのかもしれない。

「……僕はもうあのさそりのように本当にみんなの幸いのためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」

「けれども本当の幸いは一体何だろう。」

「僕もうあんな大きな暗の中だって怖くない。きっとみんな本当の幸いを探しに行く。どこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月22日
読了日 : 2023年12月22日
本棚登録日 : 2023年12月22日

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コメント 12件

チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/12/22

傍らに珈琲を。さん、こんばんは♪
清川さんのアート作品、凄く綺麗ですよね…!
私も、『銀河鉄道の夜』好きで、こちらの本も読んだことありますよ♡

宮澤賢治作品はどれも素晴らしく、難しいところも多いですけれど心惹かれていて、いちばん好きなのが『銀河鉄道の夜』なんですよね…☆☆

傍ら珈琲を。さんのレビューを
ワクワクしながらそしてなるほど…と読ませていただき、嬉しくなりました。
素晴らしいレビューを、ありがとうございます - ̗̀ෆ(˶'ᵕ'˶)ෆ ̖́-

kuma0504さんのコメント
2023/12/23

傍らに珈琲を。さん、おはようございます。

死んでいった人たちは、どんな道を辿ってゆくのか
三途の川みたいな、寂しい処なら悲しすぎる
今のような時期に空を見上げた時に見えるミルクみたいな銀河なら
その河ならば
辿ってみたい
きっと賢治は思ったのでしょうね。

ますむらひろしさんが、カラー版の銀河鉄道の夜を描き続けていて、
そこで細かく細かく彼の解釈が展開されているはずなのですが、
来年ぐらいは是非挑戦したいと思っています。
「鳥捕る人」の正体について考えたことなかったです
なるほどと思いました。

傍らに珈琲を。さんのコメント
2023/12/23

チーニャさん、こんにちはー!

綺麗ですよね~。
まだ2冊しか持っていなくて、『人魚姫』と『グスコーブドリの伝記』があることが分かっているので、いつか欲しいです。

以前チーニャさんのレビューも拝読させて頂きました。
賢治は難しいです……でもあーでもないこーでもないって調べたり考えを巡らせるのが楽しいです♪

私が好きなのは詩で、『春と修羅』です。
分からないところも沢山ですが、鉱石を含んだキラキラした雄大な景色が美しいです。

こちらこそ、嬉しいコメント有難う御座いました!

傍らに珈琲を。さんのコメント
2023/12/23

kumaさん、こんにちは!

そうなんです。
三途の川だと寂しいイメージを持ってしまうのですが、
銀河を流れる天の川を渡ってゆくと考えると、寂しさや恐れが和らいで、むしろ癒しへと向かう。

ますむらひろしさんを存じ上げなかったので、あとで画像検索してみます♪

他は星座をなぞっているのに、「鳥捕る人」が唐突に思えたんです。
小ぎつね座という考え方に、私も成る程と思いました。
他にも「とうもろこしの林」が星座と結び付かなくて。
でもこちらは分かりませんでした。

傍らに珈琲を。さんのコメント
2023/12/23

kumaさんへ追伸です

ああ、ますむらひろしさん分かりました!
ジョバンニやカンパネルラを猫で描く方ですね!!

チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/12/24

傍らに珈琲を。さん、
こんにちは〜!

お返事ありがとうございます。
清川さんの作品はいろいろあるんですね。私も「グスコーブドリの伝記」は、来年になりますが読む予定でいます。綺麗なので、楽しみです♪
賢治作品は難しくてわからないところを調べたり考えを巡らせたりするのが楽しいというの、わかります。
ブクログの皆様に、いろいろ教えていただけるのでよかったなぁと思っています〜!
「春と修羅」がお好きなのですね。私もいつの日か読んでみたいなと感じました。
ありがとうございました!
☆素敵なクリスマスを〜♡

チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/12/24

kumaさん、こんにちは〜!

今のような時期に空を見上げたときに見えるミルクみたいな銀河なら……
きっと賢治は思ったんでしょうね…というところ……
私もそう思いました……☆☆
kumaさんありがとうございます。
☆素敵なクリスマスを〜♡

kuma0504さんのコメント
2023/12/24

チーニャ、ピーナッツが好きさん、
*".`:*☆ Merry Christmas ☆ *:`."*

ミルクのような銀河、というのは実は私の実感なんです。

もう30年も前、極寒の岩手小岩井農場にあるSLホテルというものに泊まりました。行ってみて「しまった」と思ったのですが、真夜中について一泊して、午前の早いうちからでないと帰りのバスもないということで、雪の中、小岩井農場を散策もできずに、いまから考えるとSLのブルートレインを宿舎にしているので、めちゃくちゃレアな体験だったのですが、鉄道になんの興味もない私には何も響かず、朝に小岩井農場散策は大雪のために禁止されていて、それだけが残念だったのですが、夜にふと外に出て、夜空を見上げたら、もう何というか、宇宙が240度ぐらいの大展望で迫ってきて、あゝミルクって、こういうことなのか!と思いました。

冬の岩手県は、みぞれがびちょびちょ降ってくる浅黒い天気が多いんだけど、その時だけは見事な天気で、ちょっと高い宿泊だったけど、よかったです。いまさっきネットで見たら、施設老朽化で2008年に廃業したそうです。

傍らに珈琲を。さんのコメント
2023/12/24

チーニャさん、kumaさん
Merry Christmas!

チーニャさん
『グスコーブドリの伝記』、レビュー楽しみにしています♪私も来年は読みたいなぁ。
ブクログで教えていただけること、多いですよね。
皆さんのレビューに刺激を受けて、ますます読書が楽しくなってます。(読むの遅いですけど 笑)

kumaさん
岩手にも行ってらっしゃる!
ミルクのような銀河、見てみたいです。
みぞれがびちょびちょ…という天気も、何故か賢治の世界な気がします。
施設老朽化、残念ですね。
私は、行ってみたいと思っていた太宰治ゆかりの玉川旅館がコロナ禍で閉館してしまったことが残念です。

チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/12/25

kuma0504さん、
✩Merry Xmas•*¨*•.¸¸☆

『ミルクのような銀河』 
を実感されたんですね…!!

…それはもう、感動します!!

30年前にkumaさんが宿泊されたSLホテルの画像検索してみましたよ。ブルートレインの宿舎の周りに金網らしきものが、見えていますからイルミネーションのようにきっと光るのでは…⁉とそう思えたりしましたし…まさに銀河鉄道の夜の世界観があるように想像しました…。
もう廃業されてしまっていてもう宿泊できない訳で…それだけでもう、めちゃくちゃレアな体験をされてますよ…。
そこで、思わず、ミルクのような満天の星空。しかも240度ぐらいの大展望で…迫ってくるようだなんて、忘れられないですよね!!
そんな息をのむような瞬間に、
であえたのは、何か奇跡的にも感じますね。
だって、kumaさんが、夜にかなり寒いのに…なぜかふと思いたって外に出てみなければね…。旅行の疲れですぐに眠ってしまっても不思議ではないのですから…ね。

しかも、みぞれがびちょびちょ降ってくるとkumaさん表現されてますように、まさに「永訣の朝」の、みぞれの空模様でしょうかね…。多いんですね、岩手の冬って。
だからこそちょうどその日、素晴らしい満天の星空が見れたなんて凄い奇跡だと思わずにはいられませんね、私。

kumaさん30年前に素晴らしい旅をされたんですね〜
感動してしまいました…
ありがとうございます。

kuma0504さんのコメント
2023/12/25

チーニャ、ピーナッツが好きさん、
こちらこそ、もうすっかり記憶の底にしまっていた旅のことを思い出させてくれてありがとうございます♪

あの頃は、デジタルカメラもないし、旅レポートも書いてなかったので、旅の全貌は未だに曖昧なんです。それに、弟の宮沢清六さんにあったんだよ、と言っても「ふーん」と言って返されるだけだし、あの賢治のお父さんが仏教講演会をよく催し、賢治も泊まっていた大沢温泉に泊まったんだよ、と言っても興味なさそうなので、混浴露天風呂に入ったら若い女性が入ってきてね、とかいうような話でなんとか興味を繋いでいたような覚えしかない。

SLホテルに着いたのは、確か8時過ぎごろで、私が最後の食事でちょっと迷惑かけたような記憶が‥‥。食堂車は独立していて、確かそこに行くまでには外に出なくちゃいけなかったと思う。その時に夜空を見たのです。

かえすがえすも、「春と修羅」にあるような、小岩井農場の散策ができなかったことが心残りでした。宿舎のことは他には全然覚えていないけど、朝食の牛乳、バター、ヨーグルト、チーズは、全部人生で1番美味しかった乳製品だったということだけ覚えています。記憶というのは、取り出せばまだまだ取り出せるものがあるんですね。

チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/12/25

kuma0504さん、
わかります。そうですよねぇ、30年前ですものねぇ…。今の旅の仕方とはもう、いろいろと、まるで全然違いますよね…(笑)いろいろ忘れてしまって当然ですよね…。私は無理です、覚えていられないです…ハイ!

傍らに珈琲を。さんの『銀河鉄道の夜』の素晴らしいレビューのコメント欄でコメントしてよかったです☆
kumaさんからも貴重な旅のお話を伺えました!
傍らに珈琲を。さんもkumaさんと同じように「春と修羅」がお好きだと、このコメント欄で教えていただきました。
私は難しそうなのでなかなか挑戦できてないのですが…私もいつか…、いつの日か…と思います!

ありがとうございました。

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