ヘンリー・メイヒューは、19世紀当時としては、著述家の中でも大変、稀有な存在ではなかったのか。
階級意識の非常に強い時代にあって、決して上階級からの目線ではなく、机上の分析ではなく、路上を住処とした人々への徹底したインタビューによって、労働者階級の人々の暮らしを映し出した。
人の声によって紡ぎだされる歴史の断片は、有機的で決して色あせない。
路上の呼売商人、花売りの少女、売春婦、大道芸人。
劣悪な安宿。一ポンド劇場。人々で溢れかえる古着市場。
日々の生活にあくせくしながらも、懸命に生きる商人たちの一抹の誇りは、彼らにしか理解できない訛りの中に映し出される。
裸足で物を売る少年たちは、警官に殴りかかることで、その勇気が称えられる。
決して這い上がることのできない少女たちは、望んでいない生活の中で、身を売る日々から抜け出せずにいる。
メイヒューの視点には、路上の人々への温もりがある。
また、無教養な人々への絶望がある。
食材・衣服が色とりどりと溢れかえる一本の路上には、昼時の熱狂と、平日の惨憺たる静けさがある。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
英国
- 感想投稿日 : 2010年6月19日
- 読了日 : 2010年6月19日
- 本棚登録日 : 2010年4月16日
みんなの感想をみる