Amazonの紹介より
己は人間のなりをした何ものか――人と獣の理屈なき命の応酬の果てには
明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……すべてが運命を狂わせてゆく。人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、河﨑流動物文学の最高到達点!!
直木賞候補作ということで読んでみました。
本の帯を読む限り、心の中の泥臭さや野生味のある雰囲気を想像していました。読んでみると、やはり人間達の「野生」を感じた作品でした。
熊という文字をひらがなやカタカナでは書くなんて生温いと思うほど、熊という生物が恐ろしく描かれていました。
特に読み応えがあったのが、熊との死闘です。熊を仕留めるために息もつかせぬ張り詰めた空気、いつ襲ってくるかわからない緊張感が伝わってきて、改めて動物との共存との難しさを感じました。
弱肉強食という言葉が頭にこびりつくくらい、この作品は生きることの重要性を感じました。熊との死闘はもちろんのこと、集落の人とのコミュニケーション、男と女の関係性といった要素も爽快さといった雰囲気は度外視して、野生や泥臭さといった空気感が醸し出されていました。
こういった空気感は、今の時代にはないなと思いました。今日の日常がいかに生温いことか。熊爪の日常生活とのギャップに昔の人達の生き様を垣間見ました。熊だけでなく、人間の描写を読んでいると、人間も野生動物なのではと思ってしまいました。
欲望のままに、本能のままに、主人公・熊爪の野生味溢れる描写が印象的でした。
あまり人とのコミュニケーションがないがゆえに、猪突猛進していき、その結果、心の悲しみが滲んでいく描写は、泥臭さながらも、熊爪も普通の人間の感情があることを皮肉ながらも感じてしまいました。
いかに周りの環境に影響されることか。とにかく生き様が凄かった作品でした。
- 感想投稿日 : 2024年1月3日
- 読了日 : 2024年1月2日
- 本棚登録日 : 2024年1月2日
みんなの感想をみる