子育てはもう卒業します (祥伝社文庫)

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  • 祥伝社 (2016年7月13日発売)
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この小説の主人公格の3人の女性は、1950年代後半の生まれ。おそらく、著者である垣谷美雨さん自身の体験を3人に投影して書かれたのだと思う。

3人は、それぞれ北海道、高知、福岡と地方で高校時代を過ごした後、東京の四年制大学に入学して知り合う。3人が所属する文学部は当時、四年制大学進学希望者の女子が殺到する学部で偏差値が最も高かったらしい。
彼女達が入学した頃は、70年代半ば過ぎ。バブル景気がくるのは、80年代で、雇用機会均等法が施行されるのも86年、彼女達の就職が困難を極めたのも肯ける。
80年代初期でさえ、女性の大学進学率が同年代の1割、短大は2割だったそうだ。3人はいわば時代のパイオニアであるが、社会はまだ受け入れ体制が出来ておらず、企業の採用条件には「女子は自宅通勤に限る」という厳しい文言が添えられていた…。

一回り下の世代である自分が就職した頃も、まだ「女子は、自宅通勤に限る」は生きていたし、会社にいた女性社員は、雇用機会均等法以降のバブル期入社の人たちと、一部の高卒雇用の大先輩達で、この小説の世代の女性社員はほとんどいなかった気がする…採用数も少ない上、寿退社が当たり前だったからだろう…。

そんな時代を必死にもがきながら進んできた、3人それぞれの半生が綴られているのだが、今の時代から見れば「専業主婦で生活出来るなんて贅沢」とも言える。
確かに3人とも最上位層の暮らしをしているので、就職氷河期世代以降の人達からの共感性は、残念ながら薄いかもしれない…。

80年代以降、世の中の流れは速く、バブル、バブル崩壊、就職氷河期、超氷河期、リーマンショック、そして大震災を始めとする相次ぐ自然災害に新型コロナウィルス。人間社会を取り巻く環境は、希望に溢れているとは言い難い。

3人が最終章で「子育て反省会」をするのだが、今まで妻、嫁、母という肩書に縛られ、自分らしさを失っていた彼女達が、子育てに区切りをつけ、自分の人生を楽しもうと語り合う。
その中で「私たちの頃は四大女子には厳しかったけど、今は誰にでも厳しい時代だよ」と言っているが、この言葉だけは本当に共感できる。
2020.3.29

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 913日本の小説
感想投稿日 : 2020年3月29日
読了日 : 2020年3月28日
本棚登録日 : 2020年3月28日

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