弟を殺した彼と、僕。

著者 :
  • ポプラ社 (2004年8月1日発売)
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感想 : 31
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図書館で借りてきた本。

著者は弟を殺された遺族だが、弟を殺した死刑囚に対して「死刑執行をしないで欲しい」という上申書を法務大臣に送った人。その後、著者の願いは受け入れららず、死刑囚は死刑が執行された。

第三者のわたしには何も言葉がない。
ただ、こういう人も中にはいるのだ、死刑を執行することと人を赦すということは全く違うことでもある、という考えをしている人もいるのだ。死刑囚と言葉を交わしたい被害者遺族もいるのだ。

「その頃、僕は、こんなことをイメージしていました。明男と僕ら家族が長谷川君たちの手で崖から突き落とされたイメージです。僕らは全身傷だらけで、明男は死んでいます。崖の上から、司法関係者やマスコミや世間の人々が、僕らを高みの見物です。彼らは、崖の上の平らで広々としたところから、「痛いだろう。かわいそうに」そう言いながら、長谷川君たちとその家族を突き落とそうとしています。僕も最初は長谷川君たちを明男たちと同じ目に遭わせたいと思っていました。しかし、ふと気がつくと、僕が本当に望んでいることは違うことのようなのです。僕も僕たち家族も、大勢の人が平穏に暮らしている崖の上の平らな土地にもう一度のぼりたい、そう思っていることに気がついたのです。ところが、崖の上にいる人たちは、誰一人として「おーい、ひきあげてやるぞー」とは言ってくれません。代わりに「おまえのいるがけの下に、こいつらも落としてやるからなー。それで気がすむだろう」被害者と加害者をともにがけの下に放り出して、崖の上では、何もなかったように、平和なときが流れているのです。」

「仮に平凡な暮らしをしている人たちがゼロ地点にいるとしたら、僕たち家族は明男を殺されてマイナス地点に落とされました。ゼロに戻りたいのに、誰も引き上げてくれません。しかし、長谷川君には、大きなマイナスに落ち込まないように支えてくれるよき友だちがいるのです。僕が長谷川君を自分よりも大きなマイナス地点に落としても、僕の方はちっともゼロには近づけず、同じマイナス地点にいるに過ぎません。僕が望んでいることは、事件前のように人を心底憎むこともなく、明るく平穏な生活に戻ることです。その望みが叶うかどうかは、長谷川君を死刑にしてもしなくても関係ないように思いました。(中略)しかし、僕は、彼と面会したことが、自分にとって快復への道につながる予感を感じました。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 死刑関係
感想投稿日 : 2014年2月14日
読了日 : 2010年2月11日
本棚登録日 : 2014年2月14日

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