末裔

著者 :
  • 講談社 (2011年2月16日発売)
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本棚登録 : 363
感想 : 84
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久し振りの小説で,どうやって辻褄を合わせるのだろうとわくわくして読み始めた~省三は出世の見込みのない区役所職員だ。国語辞書の編纂者であった父が釣りの事故で死に,妻子と共に母と同居し始めたが,母は認知症が進んで施設に入り,妻は急な病でなくなって,息子は結婚と同時に家を出て,父親との息が詰まる生活に娘が別居し,一人だけの暮らしだ。ある日仕事を終えて家に帰ると鍵穴がなくなっていて家には入れず,息子は相談相手にならなかったので,新宿で呑み,終電を逃すと,声を掛けてくる男がいる。デリバリー専門の占い師だという乙は,ホテルを紹介し,未来も過去も見えると云う。かつて小学校の時に名古屋に一人で出掛けようとして,財布をなくした時に妻に助けて貰ったという。ホテルにいても危ないというので,鎌倉の伯父の家に来るとインコがまだ生きていた。しかも犬らしき姿を持つものが水をくれて喋り出す。家に入ることができずホテルも消えてしまい,鎌倉から世田谷に通い続ける内に父の東大時代を知る人とも知り合い,父と伯父のインテリ風の会話を思い出す。ある夜帰宅すると家に灯りが点いていて娘を発見し久し振りに話をすると,母が好きではなかったのだと意外なことが語られ,伯父の妻はあの花をどうにかしないといけないと忠告を受ける。30代後半の女性同僚からはアメリカに行ったきりで音信不通の8歳年下の弟と結婚することになったと告げられる。富井のルーツを探るために息子から車を借りて出掛けた佐久の社で乙の文字を見つけ出し何となく納得する。弟と電話で話をするとアメリカで日本文化を研究しているようで,近々帰国するから家で姉を加えて三人で会う約束が成り立つ。いよいよ家を片づけなければならない。隣家の庭でうるさい犬を蹴りつけて自宅の庭に入り,パンツの花をむしり取り,掃き出し窓を割ってゴミ屋敷化した家に入るのだ~58歳の冴えない男を主人公にして身の回りに起きる不思議な出来事を綴っていく手法だが,祖父や伯父・父のようなインテリではなさそうなのに,ちょっとインテリの片鱗も見える。乙という人物の素性は富井家に時々関係してくる人なのか。犬が喋り出すのは自分が犬にとっての七福神の一人だから。鍵穴が消えた謎は明かされず,力業で空ける必要が生じた。不思議は不思議で良いじゃない・という開き直りが嫌だ。作者の私生活が透けて見えないのが良いなあ,小説を書いた方が良いよと感じていたが,信州へのドライブで彼女の車の趣味が見えちゃったので残念。一年掛けて雑誌に連載したが,開始早々に広げてしまった大風呂敷の隅を数カ所畳んだけど,きちんと片づけることは出来なかった。パンツのような花の咲く木は,花を毟る必要はない

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2011年8月12日
読了日 : 2011年8月12日
本棚登録日 : 2011年8月12日

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