異国の出来事 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

  • 国書刊行会 (2016年2月29日発売)
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感想 : 10
5

短編集。良かった。

あぁ人ってそういうとこあるよね。
自分にも似たような経験があるなぁ。
そんな気持ちになり、全ての物語がちょっと胸に痛かったり、切なくなったり。
表情も心情の移ろいも簡単に思い浮かべられる。

[エスファハーンにて]
エスファハーンで出会った2人。
アイリスは夫がいるが、仲はイマイチで一人旅。
ノーマントンは、奥さんはあまり外に出たがらないタイプで一人旅。
アイリスはノーマントンが素敵だと好意を持ったようだが、ノーマントンは自分のことを話さず、その旅でさようならした。
実はノーマントンは、1人目の妻も2人目の妻も他の男に寝取られた男で、それをアイリスに話すことはできなかった。
アイリスは表面的な勝手なイメージをもったノーマントンのまま別れ、エスファハーンの記憶となる。

本当のことを話せば良かったのかもしれない。
夫婦仲がうまくいってない2人が惨めな話をお互いして仲良くなってもいいじゃない。
そんな気もする。
アイリスは間違った印象をもった空想の男の思い出を持ち続けることになる。
むかーし片想いだった人を時々記憶の中から引っ張り出すのに似ているかもしれない。

[サン・ピエトロの煙の木]
ぼくは病気であと数年しか生きられない。
母親は健康改善のため、ぼくをサン・ピエトロ・アルマーレへ夏季の間連れて行く。
そこで出会った人たちの中にムッシュー・パイエがいた。
ぼくも母も仲良くなった。
ぼくはそのうちあと数年と言われたのに生き延びた。
それでも毎年サン・ピエトロへ母は連れて行く。
成長するにつれて理解する。
両親の仲はもうダメで、母はムッシュー・パリエと夏限定の不倫をしているのは明らか。
幼い頃はわからなくても、大人になるにつれてどんな状況だったか理解できるようになる。

[版画家]
一夏の忘れられない思い出。不倫に発展したかもしれない恋。

[家出]
太り過ぎの夫とぶさいくな養女シャロンが不倫していたことを知り、1人家を出て暮らし働き始めたヘンリエッタ。一人暮らしも充実していた。
その暮らしもまた養女の呼び出しで家に戻ることになる。夫の調子が悪くなったから。養女は数ヶ月前にもう別れているし、新しい男がいるのでさようなら。飼っていた犬がいつの間にか死んでいる。
ヘンリエッタはそこを後悔していた。犬も連れて行けば良かったと。
ヘンリエッタは夫の姓があるだけで不自由だと思う。
夫は、ごめんごめんと繰り返す。

シャロンは若いせいもあるかもしれないが、自分勝手な最低な女だ。嫌な目にばかりあうヘンリエッタが自由になれたらいいのにと思う。家出ではなく、早々に離婚したら良かったのに。

[お客さん]
年に一度島を訪問するギー。
ホテルでの晩餐の日、ある夫婦を目にする。夫はすぐに席を離れて、白いドレスのきゃしゃな女性は一人で座っている。夫はとうとう酔っ払い目立つ行動をして、酔い潰れ倒れる。
ギーはその妻をずっと見ていた。一目惚れ。
酔い潰れた夫をギーは部屋まで運び、酔い潰れた男の横でギーはその女性と関係を持つ。
女性は夫をこらしめたかった。しかし、酔っ払いはずっと眠っている。
ギーは女性がシャワーを浴びている間にこっそり立ち去る。
ひとりぼっちの方が気楽だと考える。

[ふたりの秘密]
ウィルビーはある日死んだと思っていた幼馴染のアンソニーに出会う。
9歳、子供の頃、老犬をマットレスに乗せて海へ出す。老犬が自分で命を救えるか試すために。老犬は溺れ死ぬ。
軽率な行動と残虐性。老犬が死ぬかもしれないのに、従順な賢い片足の悪い老犬を見殺しにした。
アンソニーはずっと裏切った記憶を持ち続けて生きてきている。
ウィルビーは中古切手市場に居れば心の平安を保てる。でも、アンソニーの生き方が好ましいと思った。

自分が飼っていたペットを殺してしまった記憶は後悔として残るだろう。もし、平気であれば、問題があるように思う。9歳ならわかるはずである。
助けを呼びにいくにしても、自分たちの浅はかな行動が恥ずかしくできなかったのか。
悲しい話だと思う。アンソニーは懺悔をしながら生きている。

[三つどもえ]
おじさん、ドーン、キース。
ドーンとキースはおじさんの面倒を見てきた。ドーンとキースはおじさんがいないと生きていけない。

おじさんが、ドーンとキースのために格安ツアーを予約したが、実際は何らかの手違いかわからないが、別の年寄りのツアーに入ってしまう。

そのせいで、キースは苛立つ。
苛立っているので、ドーンはなんだか途中でおかしいと気付いても言い出せず。
間違った旅にはなったけど、親切な人もいるし、ドーンは楽しもうと言う前向きな気持ちはある。
キースは全くない。ずっと苛立っている。
それでも、2人は固く抱き合う。
おじさんの財産を狙っているのだから。

キースとドーンのような関係の夫婦はよくあるかも?
どちらかと言うと、私はキース寄りかも。
イライラしてしまいそう。同じ時間を過ごすなら楽しい方向で行けばいいんだけど。
間違った旅行を楽しむ余裕があるかなぁ?
そうならないとわからないけど…

[ミセス・ヴァンシッタートの好色なまなざし]
ヴァンシッタートは世間からすると、男に色目を使って浮気しているような女に思われ、夫はおとなしく従順だと思われている。
しかし、実際にはヴァンシッタートは夫一筋でをずっと愛しており、夫は少女を裸にして眺める(手は出さない)趣味がある。
上部だけでわからない真実。
ヴァンシッタートの気持ちを考えると切ない。

[ザッテレ河岸で]
ベレティはあまり気乗りしないが父と旅行をする。
ベレティは旅の終わりに父に理想ではない娘としての自分をさらけ出し、父は戸惑い、お互い気まずい雰囲気となる。
子供は成長する。理想の娘でなくなることも普通にあるもの。

[帰省]
少年カラザースと副寮母のミス・ファーンショーは一緒に帰省。
食堂車でカラザースは態度が傲慢な感じで、ミス・ファーンショーを焦らせてばかりだった。
しかし、仕切り客室に入ると、ミス・ファーンショーは自分のことをカラザースにぶちまけたくなり、喋り出した。
理想の娘じゃなくて、両親をがっかりさせていることなど。
喋りまくる相手にカラザースは呆然として、戸惑う。
食堂ではミス・ファーンショーがカラザースから早く離れたいと思っていたのに、客室では逆になる。

[ドネイのカフェでカクテルを]
男声が美しい女性に興味を持たれて話しかけられる。
よくおしゃべりするが、男は鬱陶しく感じた。
ある日、女性は男性に明日の待ち合わせを強引に約束して別れる。
男は待ち合わせに行ったが、女は来なかった。
男は自分の過去がつまらないので劣等感があった。
警察に女性について捜索を依頼したが見つからず。
結局、男は冷たい態度をとったが、待ち合わせに来なかったので、惜しく感じたのか。美しいその女とどうにかなりたかったのだろう。
カフェで同じ時間に待つ習慣ができる。
女がいたら、こんなふうになっていただろうと妄想して。
女は新しくすぐ誘いにのる男と出会って去ったかもしれないし、宿泊代が払えずに去ったのかもしれない。
女だって、嘘で包まれた格好をつけた姿だったかもしれない。
『エスファハーンにて』とストーリーがちょっと似ている。

[娘ふたり]
幼馴染みに久しぶりに偶然出会う。
幼馴染みの2人の娘が体の弱い同じ男の子を好きになるが、男の子は死んでしまう。その前に互いが男の子から同じような手紙を何通ももらっていた。その事実を知っていたのは片方の少女だけ。もう片方は自分と両思いだったのに、なんであなたが墓参りに来ているのよ…などともめ、その後は会わなくなっていた。

仲良しでも好きな男が同じになると必ずもめる。
たいてい、男とはすぐに別れて、友達をなくしたことに後悔しそう。
この短編の場合、男の子の真意がはっきりわからないまま死んだので、ずっと少女の中で王子様だ。
男の子がそういうふうに仕向けていたのなら大成功。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文芸(その他現代)
感想投稿日 : 2021年6月29日
読了日 : 2021年6月29日
本棚登録日 : 2021年6月29日

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