戦争論〈上〉 (中公文庫)

  • 中央公論新社 (2001年11月25日発売)
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感想 : 17
4

19世紀プロイセンの軍事学者、クラウゼヴィッツによる、戦争と軍事戦略に関する本。
彼自身も従軍した対ナポレオン戦争を中心に、中世〜紀元前に遡る各戦闘を行き来しながら、戦争に含まれる各要素について言及される。
それぞれの戦史や登場人物が詳細に述べられるので、歴史も学べて勉強になる。

専ら戦争における戦略について述べられるが(作者は「戦略」と「戦術」の定義に厳しく、戦術については触れないとたびたび言及する)、戦争に限らず、現代の仕事や職務についても役立つものであると感じた。

例えば、「戦争におけるすべてのものは非常に単純であるが、それが累積され、戦争を見たこともない者には想像だに出来ない障害となる」というフレーズ。
戦争に限らず、企業活動やそれに伴う各職務には、このような事態が多かれ少なかれ発生する。
事態が予断を許さない中、勝利に向かって迷い無く進む司令官の精神力についてたびたび言及されるところも興味深い。

或いは、前衛をどの距離に位置させるか、軍行はどの程度の期間を要するか、糧食や交通についてなど、数値計算に基づいた戦略立案に、緻密な計画の面白さを改めて見出した。
自分の仕事に対して向き合う、良い契機であった。

また、戦争は勝利が決した後の戦闘で初めて果実を得られる、というところは、敵方の徹底的な殲滅を主張したマキャヴェリの考えと同じだと感じた。
最近戦略書をまとめて読んでいるので、このような類似性や相違点を発見するのも、また楽しみである。

さらに、本書巻末の訳者解説は秀逸である。
戦史を改めて振り返り、それに伴う戦争の変遷を、古代〜21世紀の現代に至るまで、非常にわかりやすくまとめてくれてある。

その中で特に印象的だったのは2点。
1つは、クラウゼヴィッツが封建的思想が根強いプロイセンの軍人でありながら、如何にフランス革命後のナポレオンの戦略に感銘を受けているか、というところ。
もう1つは、フランス革命、封建社会の崩壊、それに対する反動主義、産業革命とそれに伴う資本主義台頭、さらには資本主義の高度発展段階としての帝国主義、という18世紀〜19世紀の出来事が、如何に戦争のあり方とそれに伴う戦略に影響を与えたか、ということであった。
中世までの、貴族層に限定した「戦場での決闘」としての戦争が、市民革命の進捗とともに都市と市民全体を巻き込み、次第に国を挙げた総力戦に至るまでの過程がわかりやすく腹に落ちた。

最後に、これから読む方へは、1つ注意を促したい。
著者のカール・フォン・クラウゼヴィッツは貴族であるため、この書はその階級に相応しい文体で書かれているらしい。
日本語訳も、日常では使うことのない言い回しが見られた。

「格調の高い文章」を読む心地よさは確かに感じられ、単純に読むことの楽しみがあることはわかる。
しかしながら、非常に回りくどかったり、言葉の定義にこだわり何度も念を押したりするところは、やや過剰にも感じられる。
例えば、「火器が発達すれば騎兵の影響力は弱まる」という至極わかりやすい事実が詳細に長きに渡り論じられるが、無論その必要性はあまり感じられないのである。
日本では、16世紀に既に信長・秀吉が証明済みだ。

当時のドイツ貴族の雰囲気を感じつつ、優雅に読むもよし。
自身の仕事に生かせるヒントを探すもよし。
ヨーロッパの戦史を学ぶもよし。
様々に読める本だが、人様におすすめするとすれば、このように冗長な文章を勧めるのはやや気が引けるので、解説本などのほうが手に取りやすいかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月30日
読了日 : 2023年6月30日
本棚登録日 : 2023年6月6日

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