神々の山嶺 下 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2000年8月18日発売)
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本棚登録 : 2294
感想 : 264
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誘拐事件はアッサリ解決。後半の熱量が凄い。
氷壁を登るくだりは読んでいて恐い。低酸素の呼吸困難と落ちる恐怖、襲う幻覚。自分だったらと思うととても耐えられる気がしない。逃れられるならいっそ自ら…いや、そもそもそんなところに近付かない(近付けない)な。
凍傷で指を何本も落としながらも取り憑かれたようにキツい山を目指し続ける山家が以前から恐ろしかったんだけど、あれは畏怖の感情だったんだなと気付いた。
ラリった状態で書かれた羽生の手記は壮絶だ。
真冬のエベレストの難しいコースを無酸素で、なんて彼らは夢みたいなロマンを語っているように見え、その実登山には緻密な計画性と知識が求められる。メディアは羽生の残した結果だけを見て好き勝手に書き立てるが、山しか残らなかった男の実情など彼らにわかるわけがなく、また本人にもよくわかってない。
頂を目指すこと、死ぬこと。それは山に限らない。そして結果ではない。生きてきたという歩みそのもの。山について語る人はそんなふうにいつの間にか人生の話をしている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年7月30日
読了日 : 2021年7月30日
本棚登録日 : 2021年7月12日

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