同調圧力の正体 (PHP新書)

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  • PHP研究所 (2021年6月16日発売)
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コロナ禍で明らかになった新たな同調圧力の正体を「タテ(秩序)からヨコ(正義)」に変わったという視点で、日本でこれまで問題となっていた同調圧力とは何なのか、日本社会の歴史的背景やコロナ禍で露呈した日本の課題を明らかにしています。
著者指摘のとおり、現状のこの変化は十分理解できるところであり、その特徴も注意しなければならないところでしょう。最後に、同調圧力に対処するための戦略を提案しています。難しい面も多いのですが、参考にしたいと思います。

▼同調圧力の背景にある3つの要因
①閉鎖性
②同質性
③未分化
・閉鎖的、同質的な組織や集団は共同体になりやすく、さらに個人が未分化だと同調圧力に無防備である。この三要因は日本社会、日本の組織・集団の特徴をあらわすキーワードともいえる。それゆえ日本の社会や組織や集団の中で、人びとが同調圧力を強く感じるのは当然だろう。
・共同体の圧力による自発的な協力要請と、公式組織の力による強制という二段構えの手段を備えた日本式の共同体組織は、最初から強制に頼る欧米式の組織に比べて一見すると弱腰なようだが、実はより強力だということができる。だからこそ組織は、なんとしてもその体制を守ろうとするのである。

▼冷静な意識に基づく合理的な計算、あるいはほかの目的や価値との比較考量を超える社会的な力を産み出すものーそれはイデオロギーである。イデオロギーでゃ命令や権力に対する服従というタテの力だけでなく、民衆のある意味で自発的な行動というヨコの力も生む。
▼感情的にも、理念としても共同体を望ましいものとしてとらえ、共同体を積極的に維持・強化しようとする価値観。それを「共同体主義」と呼ぶことができる。ただ、そこに日本社会の特性が色濃く反映されていることを考えたら、正確には「和製共同体主義」ないしは「日本的共同体主義」と呼ぶべきかもしれない。
▼本書では既存の政治思想や社会科学の概念にこだわらず、共同体主義を「感情的にも、理念としても共同体を望ましいものとしてとらえ、共同体を積極的に維持・強化しようとする価値観」と定義する。
▼共同体主義は、その性格からして自由主義や個人主義とは相容れ難いが、民主主義には溶け込みやすい。とりわけ参加型民主主義とは、理念的にも一致する部分がある。したがって日本では政治的に右からも、左からも支持される場合がある。

▼日本の職場では効率性の論理と共同体の論理が渾然一体となっており、それが問題を複雑にする。
▼タテ方向の同調圧力を「家父長型同調圧力」と呼ぶなら、ヨコ方向のそれは「大衆型同調圧力」と呼ぶのがふさわしいだろう。注意したいのはヨコ方向の同調圧力においても、攻撃する者、される者、傍観者という三者の関係が前述したイジメやハラスメントの場合と驚くほど似ていることである。違うのは圧力の方向がタテかヨコか、そして背後に社会的な「正義」があるかどうかだけだといってよい。とりわけ日本社会で問題なのは、そこに異論を受け入れる懐の深さがないことだ。
▼少数意見や異論を受け入れるようになることが、成熟した社会へ移行するための課題だろう。いま社会のフラット化が進む、私たちはタテの圧力から解放されようとしている。本来なら個人が主役になるチャンスである。にもかかわらず自縄自縛ともいえる状況に陥っている現実がそこにあるのだ。
▼私たちは過剰な同調圧力を苦々しく思いながら、いっぽうで他人に圧力をかけていることに無自覚な場合が多い。
▼コロナ禍で露呈された共同体組織のもう1つの弱点、それは、危機において意思決定システムが機能しなくなることだ。

▼新たな同調圧力の特徴
①圧力をかける者が匿名集団であり、姿が見えないこと。それだけに対処が難しい。
②多くの場合、被害者が同時に加害者にもなりうること。
③日常生活の隅々まで、ときには身近な対人関係の中にまで入り込むこと。
④圧倒的な伝播力・拡散力を持っていること
▼同調圧力と立ち向かう3つの戦略:構造改革戦略、適応戦略、共存戦略

<目次>
序論 「事件」は共同体の中で起きる
第1章 なぜ日本社会はこれほど窮屈なのか
1 職場も学校も共同体に変質
2 同調圧力の背景にある三つの要因
3 加圧装置としての共同体型組織
第2章 圧力をエスカレートさせるもの
1 同調圧力の正体
2 自粛、謹慎ムードを強化するもの
3 ウチの常識はソトの非常識
4 それでも幸せだった昭和時代
第3章 パンドラの箱が開いた平成時代
1 イノベーションの足を引っぱる工業社会の残像
2 グローバル化、規制緩和の「意外な結果」
3 起きるべくして起きた「平成の不祥事」
第4章 コロナで露呈した日本の弱点
1 テレワークと日本型組織は水と油
2 自粛警察、SNS炎上にみる「大衆型同調圧力」
3 コロナ対策が後手に回る必然
第5章 同調圧力にどう立ち向かうか
1 同調圧力に対処する三つの戦略
2 構造改革戦略
3 適応戦略
4 共存戦略
あとがき

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年12月5日
読了日 : 2021年11月4日
本棚登録日 : 2021年10月29日

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