それでも、日本人は「戦争」を選んだ

著者 :
  • 朝日出版社 (2009年7月29日発売)
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加藤陽子が、日清戦争から太平洋戦争終結までの歴史を、高校生との対話を通して行われた授業をまとめた一冊。

栄光学園高等学校の生徒のレベルの高さに、驚きつつも日本の未来に微かな希望がもてる一冊でもあった。

加藤陽子は、大東亜戦争を講義する前に、国民を戦争に動員するための社会契約及び、戦争終了後に於ける敗戦国の国体改造という現実を解説。
それによって、日本国憲法の原理及び、現在の日本の歴史的位置づけを、再定義している。
こういった解説は、一般的に講義する人間の歴史観に左右されるのであるが、加藤陽子はここでE.Hカーを持ち出す。
フラットな視線で歴史と対話するスタンスは、加藤陽子自身の宣言であり、栄光学園生徒との意識共有をはかることを目的としているのだろう。

例えば、日清戦争の項では、東アジアにおける西欧列強の進出と、華夷秩序のほころびから、外交問題・民衆・思想家・議会と内閣など、日清戦争に至る経緯を多角的に解説することで、一元的な歴史観で捉えない注意を払っているのも好感が持てる。


本書は全編を通して、明治維新以降、日本のターニングポイントとなった、様々な事件に対する理解を深めることができる一冊となっている。
個人的には、この時代を扱った書籍は、毎回同じポイントでため息が出る。

永田鉄山惨殺事件、熱河事変、ミッドウェイ海戦だ。
このあたりも、本書できちんと取り上げているだけではなく、歴史的文脈としてとらえているあたりが好感をもてた。

また、知識不足で知らなかったのだが、日中戦争に突入していた時期、国民党政府の戦略家にいた「胡適」という人物。
国民党政府が日本に勝つためには、二〜三年は負け続けて、日本の兵站を伸びきらせた上で、ソ連やイギリス・アメリカの参戦をひきだし、最終的に一挙に挽回するという、大胆な戦略を上申したという。

オセロで序盤勝ちすぎたがために、有効的に駒を置く場所が無くなり、終盤でほとんどひっくり返されるというのを見た事があるが、そんなイメージが浮かんだ。

全体的に非常に整理されてますし、文章も丁寧ですので、日本の近代国家の歩みを理解する上では非常に頼もしい一冊だと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2012年12月11日
読了日 : 2012年10月25日
本棚登録日 : 2012年12月11日

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