憲法学の病 (新潮新書)

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  • 新潮社 (2019年7月12日発売)
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法学部法律学科で憲法を専攻する学生の視点から感想を述べる。

ゼミの夏合宿にて、総勢30名が本書の言説を多角的視点から分析したが、主に私が担当した憲法9条の解釈論(おそらく本書でいう1〜4章あたり)について、篠田氏の思考方法と、本書の内容について触れる。

⑴篠田氏の思考方法について
彼は主に国際法的観点から、憲法のあるべき解釈について主張している。ことに、憲法前文の記述を独自の解釈により9条の解釈について論じている。この思考方法は、なんら憲法学者と変わらず、その作法を守っている意味で、外観は、憲法的議論としては成立している。ただ、憲法前文では、周知の通り基本的人権の尊重、国民主権、平和主義が挙げられており、彼の言う「国際協調主義」は、普遍的なそれではなく、彼の色が入ったものになってしまっている。芦部や長谷部、その他憲法学者よれば、憲法学者は、国際協調主義=いわゆる平和主義の観点を、踏まえた上で憲法解釈を試みていることがわかる(芦部『憲法』を参照)。つまり、国連憲章やパリ不戦条約などの文言との連関について、篠田氏だけでなく、すでに憲法学者は実践済みということだ。したがって、篠田氏の思考方法については、間違っていないものの、その意味内容については、やや一元的かつ限定的なものになっていると解する。これについては下段に詳細を譲る。

⑵本書の内容について
東大法学部批判を試み、ことに憲法9条について独自の解釈内容を提供している。東大法学部批判については、芦部が理由なく、war potentialについて定義しているという批判については、納得する部分がある。平等原則違反につき、同法14条1項の後段列挙事由にあたる場合は、より厳格な目的手段審査を要する、という14条における芦部説が根拠をもっていないことと似ている。
ただ9条における解釈については、パリ不戦条約や国連憲章の文言を意識し過ぎた解釈となり、一元的なものになっている。また彼の主張を支える、根幹にある憲法前文は、国際協調主義を掲げたものであるという主張には、前文解釈において、誤読部分があり結果として論理として成り立っていない。また国際法学者の文献からもこの解釈が誤りであることがわかる。
しかしながら、本書並びに、彼の書籍における主張を分析する中で、法学的思考の重要性や新たな視点という発見や再確認する事項も多々ある。したがって本書を読む際には、憲法の教科書と比較しつつ読むべきであり、一般的な憲法学の専門書のみ、本書のみでは、得られるものはないと思う。すくなくともアカデミックなテーマを扱う本書のみで憲法について評価をつけることは、お勧めしない。
※同じことを繰り返し述べているので、論旨が記述されている部分は、以下の頁を参照。


参考文献
→彼の本を理解する上での文献を一部掲載します。
本書→19,22,24,26,32,53,63,91,92,101,117頁

篠田『ほんとうの憲法』(筑摩書房)→39,42,58,152-154頁
佐藤幸治『憲法1』(成文堂)127頁
芦部信喜『憲法』(有斐閣)54,56-59,67,385頁
長谷部恭男『憲法』(新世社)62頁
愛敬浩二『改憲問題』(筑摩書房)58-59頁
駒村圭吾『プレステップ憲法』(弘文堂)69頁
藤田久一「平和主義と国際貢献-国際法からみた9条改正議論」ジュリスト1289号(2005)89頁など。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年1月19日
読了日 : 2020年1月19日
本棚登録日 : 2020年1月19日

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