櫂 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1996年10月30日発売)
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本棚登録 : 670
感想 : 65

<桂>

本書は,僕がめったに読まない「文庫本」である。大概の新刊は文庫になる前に単行本で読む。まあこの本はずいぶん昔の本だから今更単行本ってわけにはいかないのだが。で,何故この文庫本を手に入れて読む事になったのかが自分でも実は分からない。先に読んだ宮尾登美子の本が無茶面白くてそれでこの『櫂』も読んでみる気になったのかも知れないけど,その最初に読んだ本が何だったのか心当たりが無いのだから。

物語冒頭は「喜和は,朝,出がけの岩伍(いわご)からいいつけられていた・・・ 」 で始まる。さて,この主人公の『喜和』。実はその読み方が一回も本中では詳らかになっていない。ルビを振ってあるところが無いのだ。さてこれはなぜか。と云うより まず読者諸兄姉の皆様はこの『喜和」をいったいどう読んでいるのだろうか。きわ,よしかず,きな,よしわ ・・・。沢山の読み方が考えられるのだが。(と書きながら,まあ『きわ』と読んでいるのだろうなぁ,とは思いながら・・・)

のっけで話に出て来る土佐高知の『種﨑』と言う場所を実は僕はよく知っている。土佐湾の入り口に架かる浦戸大橋を坂本龍馬銅像の立つ桂浜側から渡ったところにある町である。僕らは学生時代 その町にある『種﨑海水浴場』の海岸で毎年キャンプをしていたのだ。いやぁ実に楽しい青春時代だったなぁ。 僕は高知市から国道32号線で2時間弱程北上したところに在る徳島県阿波池田という山間の町で生まれ育った。夏の休みには友人達とバイクと車を連ねて,この種崎海水浴場までキャンプ遊びに来ていたのだ。

『喜和』と違って,作中 何度何度も振り仮名(ルビ)がついている漢字に『楊梅』:やまもも がある。読みづらい漢字は普通最初の一回だけルビが振られるが,その後はあまり繰り返し振られないのだが。で,気になるのでググってみた。そうするとビックリ。やまもも は徳島県が最も有名な産地なのだそうだ。そういえば僕も年少の頃に似たようなモノを近所の野山で採って食べた様な気もする。甘酸っぱかった様なそうで無い様な。あまりに昔なので勝手に記憶を作っているだけかもしれないが。

それから本書では「家」と書いて「く」と読む。これは僕の生まれ育った阿波池田でもしごく普通の言い方であった。ばあちゃん(家)く,おっちゃん(家)く,そして るいさん(家)く,ぬらさん(家)く,ペグさんく(家)・・・w。今でもこの言い方は田舎のみなは普通に使っている。好きな言い方である。(標準語ではこの言い方は「んち」なのだろうな。「ぼくんち」って。)

ここ最近は新刊書本ばかり読んでいた僕にとって,この本『櫂』はかえって新鮮で また読みがいのある作品だった。言い換えると ”今まで読んだことの無い類の小説” とでも言えば良いか。まあいわゆる ”純文学ジャンル“ には入る本なのだろうが,どうしたことか 僕の読書欲は今回それ程 純文拒否反応 を示さなかった。そりゃ しっかり読もうと思うと,雑念を一切シャットアウトして本に集中しないとなかなか頭に入ってこないけどが。

さて,とにもかくにも本作のテーマは「世間体」だと思しい。何事をするにも決めるにも一番気にかけて優先するのは「世間体」。他人の目/廻りの目である。自分自身や直接の相手の事は二の次なのである。まあ21世紀の今だってそういう事はもちろん少しはあるが,この『櫂』の時代ほどではないだろう。(全くの余談だが,中華人の多くにはこの 他人の目を気にする,というココロが欠落しているのであろう。いわゆる羞恥心無し/恥ずかしいという気持ちが無い,というやつである。彼らのあらゆる言動はそのことを証明しているのだ)

僕の感想の最後に『櫂』と『櫓」を比べてみた結果を書いておこう。これは僕が学生時代(40年以上前のことw)に流体力学の講義で教授が雑談としてしゃべっていた内容が印象に残り,以来ずっと覚えているものである。
割と簡単に舟を漕ぐ事が出来るのは「櫂」。でも速く進もうとすると懸命に漕がなければならない。有体に言うと その時の舟の進む速度よりも更に速く櫂を動かして漕がないとそれ以上の速度は出せない。

対して櫓は扱いが難しい。ハッキリ言ってちゃんと舟が漕げるようになるにはかなりの経験と時間がかかる。しかし一旦櫓の漕ぎ方を覚えると櫂に比べて長距離をかなりはやい速度でしかも楽に漕いでゆくことが出来る。昔ながらの船頭さんが操る河川の渡し舟などは全部「櫓」で漕いでいる。それはなぜか。ここではヒントを一つだけ書き残して僕の読書感想文を終える。ヒント:「櫓の断念形状は飛行機の『翼形』似ている』。まあもちろんググればわかるけどね。あ,最後不真面目で すまなかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月20日
読了日 : 2023年12月20日
本棚登録日 : 2023年11月25日

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