日本国の研究 (文春文庫 い 17-8)

著者 :
  • 文藝春秋 (1999年3月10日発売)
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 「エレベーターの検査機関には日本建築設備安全センターと日本昇降機安全センターが
あり、九五年に両者が合併、当局は公益法人を統合したと自慢している。だが名称が日
本建築設備・昇降機センターになっただけ、全国に一万五千人いる検査要員に実務講習
を受けさせ登録したりしている。
 流行している携帯電話で荒稼ぎしているのが無線設備検査検定協会(郵政省)である。
新機種について電波法にもとづく技術基準適合証明が必要だとして機種を持ち込む試験
申請の場合、たとえば二千台について検査すると決め、実際には抜き取り調査なのに携
帯電話一台当たり三千四百円の検査手数料になり、六百八十万円かかる。九六年五月に
三〇パーセント値下げしたが、普及台数が爆発的に伸びている。ポロ儲けである。
 厚生年金会館という建物はよく知られている。東京なら新宿にある。北海道から九州
まで各都市に二十一の会館が建っているや厚生年金スポーツセンターは全国で五カ所あ
る。十六方所の厚生年金休暇センターは宿泊施設だけでなくテニスコートや体育館など
が完備している。さらに健康福祉センターが二十二カ所。いずれもサンピアなんとかと
命名されている。休暇センターと健康福祉センターは、写真で見たところそっくりで、
どこがどう違うのかわからない。これらはいずれも財団法人厚生年金事業振興団が経営
している。
 この財団法人は厚生省の外局、社会保険庁の管轄である。ややこ.しい話だが、つぎに
問題にするのはグリーンピアと呼ばれる施設(大規模年金保養基地)を建設した特殊法
人である。パンフレットにこう書かれている。
「緑豊かな自然と人とのふれあいの場としての意味を込め、グリーン(緑)+ユートピ
ア(理想郷)との合成語で名付けられたグリーンピア。日本各地に十三カ所、恵まれた
自然環境のなかにそれぞれ百万坪以上のゆったりとした敷地をもっています」
 サンピアだのグリーンピアだのとカタカナ遣いが新しいと勘違いしているオジさん的
な浅知恵もいい加減にしてくれ、と言いたくなる。
 グリーンピアは、土地の取得と建築費で合計一千九百億円もかかった。特殊法人年金
福祉事業団がつくり、財団法人年金保養協会が四カ所を運営、残り九カ所は設置県に委
託され、さらに県所管の公益法人に再委託されている。
 年金福祉事業団とはなにか。じつは一兆円の焦げつきがあるのだ。そのツケは、いず
れ国民が支払わなければならない。住専の不良債権処理のため六千八百五十億円の税金
が使われて大騒ぎになったが、人知れずこんなところに一兆円の赤字が生じているので
ある。
 年金福祉事業団の事業規模は三十二兆円もある。厚生年金と国民年金の積立金は百十
九兆円になる。年金特別会計から資金運用部(大蔵省理財局)に預けられ、二古二十兆
円の郵便貯金とともに財投機関の原資となっている。ただし古十九兆円のうち三十二兆
円は十年前から年金福祉事業団に貸し戻され、運用を任されてきた。
 三十二兆円のうち一般事業勘定は九兆円で、グリーンピアの建設のほか住宅資金の貸
付けを行っている。すでに住宅ローンについては住宅金融公庫がある。住宅金融公庫の
融資で足りない分に、年金福祉事業団の住宅資金貸付を上乗せする形が実情で、貸付条
件もほぼ同じ。審査も実質は住宅金融公庫がやる。なぜ、住宅金融公庫のマネごとをす
る必要があるのか、理解しにくい。当然、行財政改革の対象とされなければいけない。
 残り二十三兆円は自主運用(資金確保事業勘定、年金財源強化事業勘定)と称している
が、要するに財テクをやってきたのだ。たしかに二十三兆円を、より有利な形で運用す
れば年金の資産が増える。だが運用に失敗すればどうなるか。
 国債を買う程度なら安全だが儲けは少ない。信託銀行や生命保険会社に預けて株式な
どに ″丸投げ″で運用してもらうことになる。結局、バブルがはじけて財テクは失敗し、
評価損は一兆円に達したのだ。さらに赤字は拡大していきそうな気配である。なぜなら
財投から高い利回りで借りて、低い利回りで運用する構造、逆ザヤはすぐには解消でき
ないからである。
 小泉厚相は、大臣就任の翌日、年金福祉事業団について廃止の方向で見直す、と宣言
した。郵政三事業民営化ではなく、自分の指揮下にある厚生省の特殊法人の廃止を打ち
出したのだから、俄然、現実性を帯びてきた。だが、どこまでやれるか。
 年金福祉事業団の理事長は、厚生省事務次官の天下り指定ポストである。またグリー
ンピアを委託経営している年金保養協会の前理事長も事務次官だった。年金保養協会の
現理事長は社会保険健康事業財団の前理事長、とグルグルと渡り歩いている。そればか
りではない。調べてみると、年金福祉事業団の住宅貸付部門だけで、財団法人年金住宅
福祉協会など五十四の社団・財団法人がぶら下がっているのだ。」p248

 

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カテゴリ: 政治
感想投稿日 : 2008年4月4日
読了日 : 2008年4月4日
本棚登録日 : 2008年4月4日

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