この父ありて 娘たちの歳月

著者 :
  • 文藝春秋 (2022年10月25日発売)
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感想 : 37
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筆者の梯久美子は、本書のあとがきに「"書く女"とその父」という題名をつけている。その題名の通り、本書は、9名の、比較的活動時期の古い、従って、既に亡くなられている女性作家とその父親との物語を描いたものである。執筆の動機について、筆者は「女性がものを書くとはどういうことか、ということに、私は長く関心をもってきた」と書いている。これら9人の女性作家たちが、ものを書くようになったこと、あるいは、書いている中身、に父親がどのように影響を与えているかを考える、すなわち、「娘と父の関係を通して、新たな側面からこのテーマについて考える」ことが狙いであったということだ。
それぞれの女性作家たちの経験は強烈だ。
例えば、渡辺和子は、2.26事件で青年将校に襲撃・殺害された父親が、自宅で実際に殺害される場面を9歳の時に目撃している。萩原朔太郎の娘、萩原葉子は、「私はまさしく父親の犠牲者としてこの世に生まれた」という父親・親族との関係を持っていた。それらは、もちろん、彼女たちの作家として書くものに、そして、その背景となる人生そのものに大きな影響を与えているのだ。

本書は、日本経済新聞の、土曜日朝刊に連載されていた。書評欄の裏のページに書かれていたように記憶している。新聞連載の1回分に書ける分量は限られており、どうしても、話が断片的になってしまう。今回、単行本で読むことが出来て良かったと思う。筆者は、ノンフィクション作家であるだけに、本書の取材や調査も行き届いていると感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月23日
読了日 : 2023年8月23日
本棚登録日 : 2023年8月22日

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