「南京事件」を調査せよ (文春文庫)

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  • 文藝春秋 (2017年12月5日発売)
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Wikiには、「南京事件」は下記の通り説明されている。

南京事件は日中戦争初頭の1937年12月、大日本帝国軍が中華民国の南京市を占領した際、約2ヶ月にわたって多数の中華民国軍の捕虜、敗残兵、便衣兵および一般市民を殺害、略奪、強姦、放火したとされる事件。

中国側の主張によると、本事件の犠牲者は約30万人にのぼるとされている。
本事件に関しては、真偽にかかる論争が続いており、書籍も数多く発行されている。なかには、「南京事件などというものは、そもそもなかったのだ」という主張もあるが、日本政府はHPにて、下記の通り記している。
【引用】
日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為があったことは否定できないと考えています。しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難であると考えています。
先の大戦における行いに対する、痛切な反省と共に、心からのお詫びの気持ちは、戦後の歴代内閣が、一貫して持ち続けてきたものです。そうした気持ちが、戦後50年に当たり、村山談話で表明され、さらに、戦後60年を機に出された小泉談話においても、そのお詫びの気持ちは、引き継がれてきました。
こうした歴代内閣が表明した気持ちを、揺るぎないものとして、引き継いでいきます。そのことを、2015年8月14日の内閣総理大臣談話の中で明確にしました。
【引用終わり】
すなわち、南京事件そのものがあったことは認めるが、被害者の数については、確定が出来ないという立場である。

政府が公式に事件があったことを認めているにも関わらず、事件そのものを否定する言説が多く、それに対して、筆者は実際にどうだったのかの調査を始める。
筆者はもともと事件記者であり、また、「遺言-桶川ストーカー殺人事件」「殺人犯はそこにいる」等の優れたノンフィクション作品を書いた作家でもある。今回の調査は、テレビ番組作成のために始めたものであるが、筆者は実際に、南京陥落時に従軍していた日本兵の日記を保有している人と知り合うことが出来、それを読み込む。その数、31冊。そして、入城当初に捕虜とした中国人兵士たちへの殺戮を記載した日記をもとに当時の状況を再現し、テレビで報道する。筆者の調査は、南京事件の全体像に渡るものではなかったが、実際に事件があったことを合理的な形で示し得たものと評価され、ジャーナリストに与えられる多くの賞を得る。
書籍のここまではノンフィクション作品であるが、筆者は事実を調査した後、色々な思索を始める。思索のきっかけとして最も大きかったのは、筆者の個人的なことをベースにしたもので、筆者の祖父が日清・日露戦争に、父が太平洋戦争に参戦していることであった。
思索は色々なことにまたがる。南京事件そのものを否定しようとする動きがあるのは何故なのか。日本の報道の自由度のランキングが世界的に見て低い(70位程度)のは何故なのか、自分自身に中国という国を軽んじる気持ちがなかったかという反省、そもそも戦争とは何か、等である。
前半の調査ノンフィクション部分はスリリングで面白かったが、後半の著者の「思索」の部分は、私自身はあまり面白いと感じなかった。
ただ少なくとも、前半のノンフィクション部分は読む価値があると思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月15日
読了日 : 2023年8月15日
本棚登録日 : 2023年8月11日

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