分類という思想 (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社 (1992年11月1日発売)
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本棚登録 : 173
感想 : 13
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構造主義生物論から科学的分類法を論じた著作である。著者は基本的に名付けや分類は自然の中に根拠があるのではなく、簡単に言えば人間の感覚によって恣意的につくられたものにすぎないとする。異星人がやれば他の分類をするからである。したがって、名付けや分類は多くの人に受け入れられることが条件であり、人間が用いる自然言語と齟齬をきたすような分類は、よい分類とはなりえないとする。一方で、人間が認知できるのは、時間につれて変転をやめない現象だけだが、ここから時間を差し引いた同一性を抽出して科学という営みを行っている。つまり、「ポチ」を調べるのは科学ではないが、「イヌ」を調べるのは科学である。この同一性は自然言語と対応しなければいけない。ところで、進化論の発展にともない、DNAの差異によって分類を行う分類法や、形態的特長をすべて同列に扱い、コンピュータにかけてグルーピングを行う分類法があるが、これらは自然言語で分類する際に用いる安定的な形態とは関係がない。つまり、これらの手法は何が分類するに足る指標(原型)かということを軽視しているので、科学的とはいえないとする。著者の観点としては、アリストテレスなどの古典的分類額を擁護しながら、リンネによる形態の一対一対応を退け、生物は構造付加と構造変換により、重層的に非連続的な変化をこうむるとされる。そして、高次分類群(綱とか目)なども実体であるとする。ここから、生殖可能な「種」だけを実体とする分岐学派を批判しており、ヘッケルや三中信宏らを批判している。つまり、系統樹をつくる際に用いる「最節約原理」(枝分かれを最小にする計算)だけでは、分類の基準はでてこないとするのである。別の言葉でいえば、「歴史を分類するには歴史以外の要素によって分割するしかない」ので、歴史だけを分類の根拠にはできないのである。ミトコンドリアDNAの分析から、20万年まえのアフリカの「イブ」が人類の共通祖先だという説について、「イブはほんとうに人類だったのか?」と反駁している。また、人間とチンパンジーのDNAが99%同じだからといって、同じ割合で人間とチンパンジーが似ていると考えることはできないともいう。構造主義生物学の好例としては、日本の6種のモグラの研究(今泉吉典)を引用している。恒温動物の体の大きさには「ベルクマンの法則」が成り立ち、気温が低い所に住む動物ほど、寒いのでたくさん熱を作らねばならず、体が大きくなるという法則である(例:マレー熊と白熊)。これをモグラに当てはめた結果、従来亜種とされてきた6種が、平均気温と頭蓋骨長の変化がのる一次式の傾きが異なることから、コウベモグラ(静岡以西)とアズマモグラ(関東以北)に代表される別種に分かれることが指摘された。つまりこの二種のモグラは体温の作り方がちがうのだ。こうした分類するに足る固い特長(原型)を地道に探し出すことこそが重要なのだと著者は指摘している。第1章は言語や社会体制の分類をしており、とにかく何かを分類をしようとする人は読むべき本であろう。分類とは思考の表現なのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学史
感想投稿日 : 2012年3月30日
読了日 : 2012年3月30日
本棚登録日 : 2012年3月30日

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