夏服を着た女たち (講談社文芸文庫 シC 1)

  • 講談社 (2000年2月1日発売)
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感想 : 5
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 短編の名手アーウィン・ショーの作品集。大都会ニューヨークに関連した話を中心に編まれており、多くの作品で男女関係が主題となっている。本書に収録されている作品は30〜40年代を描いた小説ばかりだが、ショーが浮き彫りにする“アメリカ”は時代の古さを感じさせない普遍性を帯びており、作中で描写された都会の風景は80年代と錯覚しそうになるほどだ(読書中、頭の中でビリー・ジョエルの歌が流れ続けていた)。それだけショーの観察眼が人間心理や社会の本質を的確に捉えているということだろう。また、自由奔放に生きようとする女性たちの喜悲劇を様々な男性ーー夫や恋人、元恋人が愛情深い視線で見つめる様は、ユーモラスでありながらもある種の切なさを感じさせる。
 特に印象に残ったのは以下の三本。

『80ヤード独走』
 わずか25ページほどの短編だが、ある男の栄光と凋落を描く中で、無邪気な男女の愛の始まりとすれ違い、そして終焉を見事に切り取った傑作。ノスタルジックな余韻を響かせるラストシーンも絶妙。

『ストロベリー・アイスクリーム・ソーダ』
 アメリカの牧歌的な風景を描いた美しい物語。
 勇気を出して戦いを決意するローレンス、そして弟を誇りに思うエディの絆に胸が熱くなる。農夫と息子も単なる悪役ではなく、じんわりと胸に染みる暖かさがあった。

『愁いを含んで、ほのかに甘く』
 日本では映画『Wの悲劇』の原案として知られる本作。もちろん細部は異なるものの、ストーリーの核となる事件はあまり変わらない。映画では主演を務めた薬師丸ひろ子が素晴らしかったが、ショーの短編では「語り」の力が遺憾なく発揮されている。ミステリーでありながら、同時にショービズという波に翻弄される女の儚さを描いた良作。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学(海外)
感想投稿日 : 2022年9月13日
読了日 : 2022年9月12日
本棚登録日 : 2022年8月31日

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