なめらかな社会とその敵: PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論

著者 :
  • 勁草書房 (2013年1月28日発売)
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コンピューティングや情報ネットワーク技術の登場は、人間社会のあり方を大きく変えるメジャーバージョンアップをもたらす可能性を秘めている。そのような認識を背景にした、大胆な社会システムの提案だった。

内と外を分け、個人や個社を確立し、それらに対して責任や結果の帰属、そして一貫性求める考え方が、近代の社会システムの根底にある。また、このようにして形成された社会のアクター相互のやり取り(経済的な取引、契約関係、投票といったもの)は、それぞれ1回ごとに確定され、その際にやり取りされる価値も事後に流動的に変化することはない。

このような社会のあり方を変え、よりなめらかな社会をつくる方法を、筆者は提案している。

基本的には、他者との取引や政策への賛否を自らの予算制約や投票権の上限値に対する一定割合として設定し、それらをもとにした行列計算を施すことによって社会全体に価値や評価がなめらかに遷移していくというのが、筆者が考える「なめらかな」社会システムである。

そして、この予算制約や投票権を、その人のコミュニティに対する貢献度やその政策に関するステークホルダーとしての度合いによって決めることができる。

GoogleのPageRankシステムやAmazonのレコメンデーションのように、それぞれのノードの繋がりや、ノードの重要度によって価値が移っていくという形である。

このような方法によって、これまでは既存の組織や個人という枠組みで規定せざるを得なかった価値のやり取りが、その都度柔軟なステークホルダーの枠組みによって行えるようになる。また、個人の中にある複雑で矛盾した価値観を、そのまま評価に反映することもできる。

さらに、直接的な取引先だけではなくその先の相手先への価値の伝播をも反映することができるため、リミックスや再利用などによって二次的に生まれた価値の体系を忠実に再現し、オリジナルの制作者にも伝播させることができるようになる。

実社会に全面的に実装するにはかなり大掛かりな制度の改変が必要となる。筆者も国家や市場のシステムを一気に変えていくのは困難であると考えている。しかし、インターネット上の様々な評価システムがこのような考え方をすでに実装しており、そういった意味でこのようなシステムは社会の中に実装されつつあるのではないかとも感じた。

旧来型の価値の伝播システムと、筆者の提言するなめらかな社会システムがパラレルに存在する世界に、われわれはすでに入っており、どちらのシステムにどれだけの価値を置いていくのか、われわれ自身が判断しながら生きていくことを求められているのかもしれないと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年12月12日
読了日 : 2020年12月5日
本棚登録日 : 2020年12月1日

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