エネルギー産業2030への戦略 Utility3.0を実装する

制作 : 竹内純子 
  • 日本経済新聞出版 (2021年11月20日発売)
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感想 : 9
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地球温暖化の進展を何とか食い止めるためにも、エネルギー消費のカーボンニュートラル化は重要である。

この本では、エネルギー政策や技術の動向を踏まえながら、直近の2030年に向けて最優先の取組みが何であるかを整理するとともに、さらにその先も見据えた政策やビジネスモデルの提案が書かれており、参考になった。


カーボンニュートラルの取組みにおいてまず大切なのは、エネルギー需要を可能な限り電化することである。エネルギーの利用には、熱源、動力、通信など様々なものがあるが、これらについて電力で賄うことができるものは可能な限り電化していくことが重要である。例えば、動力についても自動車のEV化は、化石燃料からの転換を図るために大きな前提条件となる。

その上で、再生可能エネルギーによる電気の共有を推し進め、地域内でのエネルギー需給のバランスや国内で発電された電気をできるだけ電気のまま使うというエネルギー供給システムを作っていくことで、エネルギー消費の脱炭素化を進めていく。


このようなエネルギー転換のためには、発電および送配電の大幅な改革が必要である。この点について、本書では日本の電力自由化は発電・卸売と小売りの両方を自由化する「送電線解放モデル」であったが、この方式は発電事業者の購買力を低下させる結果となり、結果として安定供給を支える供給力を構築することに繋がらなかったと指摘している。

また、2050年のカーボンニュートラルに向けて、電力需要の増加ペースに不確実性があること、電源ミックスを実現するための技術の多くがまだ開発途上であること、そして再生エネルギーは火力発電などと比べて固定費比率が高いという性質があることの3点により、民間企業による電源投資は依然として難しい判断であると指摘している。

以上のような状況から、筆者は日本の電力システムとして、小売部門をサービスの差別化を競う競争部門とする一方で、発電・卸売部門はすべての小売事業者のための共通インフラと位置づけるような制度改革が必要であると提言している。

この制度において、小売部門は価格競争ではなく、エネルギー利用における顧客体験(UX)や価格変動に対するリスクヘッジといったサービスを競う制度として構想されている。そして、発電・卸売部門は、必要な発電容量と送配電ネットワークを整備・維持するためのコストから算出された単価をベースにした電源入札制度を構築する。

日本のエネルギー供給に関する状況に則した制度設計を考えていくことが重要であるということが、よく分かる提言であると感じた。


本書では、エネルギーの供給側だけではなく、需要側も含めた一体的な取組みも提言されている。中でも、都市ガス会社のエネルギー供給範囲を単位とする「都市ガス経済圏」でエネルギーのバランシングを考えていくという提言は、興味深かった。

エネルギーの利用の源となる経済活動の大半は、地域社会として一体性のある圏域をベースとして行なわれる。そして、この圏域は山が境界となって形成される地域が単位になっていることが多い。都市ガスも、山を越えて供給管を敷設することは困難であることから、同様の地域を供給単位としていることが多いという。

このような経済活動の一体性がある地域において、エネルギーの地産地消の取組みを進めていくことは、それぞれの地域特性に合わせた取組みを進めるのに適していると言える。例えば地方郊外圏では再生エネルギーの発電ポテンシャルが経済活動の規模とバランスしており、それらの地域では再生エネルギーの活用を進めることで地域のカーボンニュートラル化が達成できる可能性がある。

一方で、大都市圏や重工業が集積している地域においては、電力需要と再生エネルギーのポテンシャルの間には大きなギャップがある。このような地域においては、産業セクターの脱炭素化に地域社会の住民も協力をしていくような取組みが必要となる。産業セクターの地域に対する雇用や税収面での貢献を、脱炭素の取組みへの投資に繋げていく取組みである。


電力供給に関する制度設計から、新たな取り組みを進めていくための地域社会の仕組みまで、幅広い領域に対して提言がされており、示唆に富む本であると感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年12月9日
読了日 : 2023年12月5日
本棚登録日 : 2023年12月2日

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