機械との競争

  • 日経BP (2013年2月7日発売)
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この手の本では比較的以前(原著は2011年)に書かれた本だが、人工知能の発達による影響について、比較的冷静かつバランスのとれた見解が書かれているように感じた。

「機械との競争」というタイトルとは裏腹ではあるが、機械と競争することは勝ち目がないし生産的でもない。19世紀に蒸気機関と力作業で対戦したジョン・ヘンリーのように。

むしろ、人工知能の発達した時代において最高の成果を挙げているのは、コンピューターとパートナーシップを構築したチームだ。チェスの試合でディープブルーがカスパロフを破ってから20年が経過したが、現在のトーナメントではコンピューターと協働する「フリースタイル」の参加が認められる大会が数多くあり、チェスの技量よりもマシンの計算能力よりも、人工知能を活用する「プロセス」の良し悪しが勝敗を左右する結果となっているようである。

とはいえ、人工知能を活用する「プロセス」を構築できる能力というのは、やはり高度な知的能力を要求されるものであるだろう。そのため、人工知能の発達によって人類は全体として豊かになれるものの、本書もこれからの社会における格差拡大の可能性は否定していない。

それをできる限り抑制するための低減として、「教育への投資」、「起業家精神の育成と起業家支援の体制」、「通信・輸送インフラや基礎研究への投資」、「新しい産業への法規制の緩和と税制の再構築」といったことを進めていくべきであると筆者は提言している。

現在でもまだ人工知能による経済や社会への影響についてのさまざまな議論があるが、「機械との競争」という考え方の枠組みを脱して、機械とパートナーシップを築く経済のあり方や人材の育成について考えていくべきというスタートポイントを改めて認識させてくれる本だったと思う。

出版から時間がたっているが読み返してみる意義がある本ではないかと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年5月26日
読了日 : 2019年5月22日
本棚登録日 : 2019年5月20日

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