シュリンクは子供のころ読んだ「朗読者」が好きだったので久しぶりに手に取ってみたんだけど、なんだか全体が言い訳がましいし、奥底に漂う作者の価値観のようなものが気持ち悪いと思ってしまって受け付けず、刺さらなかった。
大体どの短編も70歳くらいのインテリ男性が主人公に設定されていて、様々な「別れ」が書かれている。例えばある話は、離婚を経験済みで別れかけの若い恋人がいる70歳の男性が誕生日パーティーを機に昔のことをくよくよ思い悩むようになる。特に妻の妊娠を機に冷たく捨てた浮気相手のことを後悔し、あれこそ幸せだったのに、と彼女の現在の住所をこっそり探り、車で張り込む。すると彼女の方から気が付いて声をかけてくれ、謝罪に優しく答え、初めての男であるあなたは特別だし、恨んでない、と言い、卑怯だの過ちだのなんて、「老いたるがゆえのシミ」と切り捨てる。
自分より若い恋人がいる話ばかりすること、突如思いだした昔の浮気相手に執着してストーカーすること、そしてすべてを優しく許されること、こういう筋書き全部を気持ち悪いと思ってしまうのだけど、それはただただ私の趣味に合わないというだけの話だ。私より三周りくらい年上の人の価値観や感情を理解することが難しいというだけのことかもしれない。松家仁之やウエルベックを読んだ時にもこういう感じがするけども。
もしかしたら、私も年老いたら強烈に昔のことを思い出し、とにかく許されたいという思いに突き動かされるようになるのだろうかと思うととても恐ろしい。絶対にそんな風になりたくない。ホラーみたいな本だった。
- 感想投稿日 : 2023年3月23日
- 読了日 : 2023年3月23日
- 本棚登録日 : 2023年3月23日
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