What Money Can't Buy: The Moral Limits of Markets

著者 :
  • Farrar Straus & Giroux (2012年4月24日発売)
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本書は、政治哲学者である著者が、サブプライムローン後の今こそ、市場絶対主義をモラル面から問い直す必要があることを問題提起するもので、倫理の欠如した経済原理やその実際例は大変興味深い内容で、環境政策にも大いに関係があり、常に念頭に置いておく必要があると感じました。

<ポイント>
・1980年代から、「市場経済という効果的なツールを持った」社会から、市場価値が私達の生活・活動のあらゆる側面に浸透する「市場化された社会」に変わりつつある。
(例えば、快適な独房へのアップグレード、代理妊娠、米国に移住する権利、かかりつけ医の携帯番号、自分の子どもを有名大学に入学させること、などもお金で買える。)

・このため、市場の役割、特にどのようなグッズを市場で売買し、一方、非市場的な価値に委ねるべきか、という市場の倫理(モラル)面からの限界を考えることが重要。なぜならば、すべてを市場化することは①富める者とそうでない者との「不公平」、②市場価値が気にかけるべき非市場価値を締め出すという「腐敗(corruption)」の2つ面から問題があるからだ。

・環境関係でも、
① 黒サイやセイウチをハンティングする権利を売買することは、絶滅が危惧されている同種の数を管理し、増やすことに成功しているが、スポーツとして野生動物を殺すことを認めているのに等しいので、倫理面から物議を醸す。

② 炭素を大気中に排出する権利(市場取引が可能な汚染排出権)を売買することやカーボンオフセット(排出行為を他の埋め合わせ行為で相殺する)は、中世の教会が大聖堂の建設を目的に販売した免罪符のように、汚染排出行為を是にする『甘やかし』で、悪い行為を抑制するのではなく逆に増長させることに繋がる、という懸念もある。

③ 核廃棄物処理場の受入れを表明したスイスの村の人達に対して、経済的なインセンティブを与えると約束したところ、当初支持すると表明していた人が25%に減少し、これはインセンティブの額を上げても変わらなかった。これは、非市場価値に対しては、通常の市場経済では想定される「価格効果」が機能しない場合があるだけでなく、公益へのコミットメントを含めた道徳的な配慮を歪めることさえ、あり得る。このケースでは、反対に回った住民は経済的インセンティブを「賄賂」と捉えていた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教養
感想投稿日 : 2012年7月23日
読了日 : 2012年7月22日
本棚登録日 : 2012年6月17日

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