石さまざま(上) (シュティフタ-・コレクション)

  • 松籟社 (2006年6月15日発売)
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感想 : 5
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端正で静かで緻密で誠実。地味で生活が丹念に描写されている、というと最近読んだのでは「桑の実」が思い出されるが、なんというか両者はまるで違う。(良い悪いではなく)石の名前を付された短篇が収録されている。どれもが実直で誠実な人ばかりが登場し、必ずいくらの誇張も含まれない自然の姿が深くある。「花崗岩」では祖父と孫の語らいでペストの恐ろしさ、人がどのようにそれに翻弄されたか、そこで起きた奇跡のような子供たちの生還が地続きの過去として、周囲の自然を指さしながら描かれる。鳥が唄うという、おとぎ話のようなことが老人の口から語られると、まったくの真実として不思議に真に迫るということが、私はとても気になって好きだった。「石灰石」も地味な地味な自然の描写の中で、測量師が鄙びた土地での仕事をきっかけにある清貧を頑なに維持する不思議な司祭の思いでと遺志を知る。司祭が恥じながらも清潔で美しい白い下着を持ち続けるというのが、とても好ましくて少し切ない。「電気石」は、語り部も前の二篇とは違う痛ましい話であることを前置きし、事の次第を見届けた夫人の語りで話が進む。ある裕福な年金生活者の生活、妻の浮気と失踪、消えた年金生活者と女の子が一体どんな生活をしていたのか、必要以上に想像を煽るような書き方はされていない。ただ男が死に発見された少女の表現しがたい異質さと無垢な彼女が度々父に宿題として課せられた父と母の死についての作文が寒気をさせる恐ろしさだった。彼女は夫人と周囲の人の親切で生活と精神の健康を得て静かに暮らしたと言うけれど、・・・こういうことって、あまりフィクションとも思えず、見えないところで進んでいるんだろうなあ。じんわりと静かに染みいるような読書ができた。下巻も引き続きとりかかる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2009年2月22日
読了日 : 2009年2月22日
本棚登録日 : 2009年2月22日

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