寂しい時に読むと、みすぼらしい程孤独な主人公に引きずられて悲惨な気分に。主人公ハニチャの生きる時代や労働環境は酷い有様だけれども、彼にとって何より残酷なのは孤独でもなく新しい世代との軋轢による水圧プレスに淡々とかけられてしまう事だったんだなあ。これはどこの国でも、世代交代の際、あるものだと思う。「熊手が空中できらりと光ると同時に、一冊の本が圧縮室に飛び込んでゆくのが目に入ったので、僕は起き上がってその本を取り出し、それをシャツ拭って、暫く胸に抱いた。本は冷たかったけれど、僕を暖めてくれ、僕はその本を胸に押し付けたー母が子を抱きしめるように、コリーンの広場でヤン・フス師の像が、聖書を自分の体に半ば食い込むほど押し付けるように……。」彼はこれほどまでに本を愛していながら、三十五年間それらをジャンジャンプレスで処分する仕事に従事してきた。浴びるほど飲むビールで朦朧としながら、ネズミや肉蝿と美しい絵を古紙と一緒に潰し、そこに美を見出す彼のシュールで哀しい本への愛が、この本の中で一つの見所だ。ラストがあっけないけど、短い中でチェコの奇妙な暗い空気を味わえる、不思議な本だった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
都市と夢
- 感想投稿日 : 2010年7月8日
- 読了日 : 2010年7月8日
- 本棚登録日 : 2010年7月8日
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