ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録 (講談社文庫)

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  • 講談社 (2013年11月15日発売)
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5

「不良債権と寝た男」。マスコミは西川善文氏をこう呼んだ。その
呼び名通り、住友銀行時代の氏の仕事は不良債権処理が連綿と続いて
いたと言っても過言ではあるまい。

新聞記者志望だった大学時代、友人に誘われて住友銀行の面接を
受けたのをきっかけに入行が決まる。西川氏の面接にあたったのは
後に頭取となり「住友銀行の天皇」とも呼ばれ、イトマン事件で
西川氏と対立することとなる磯田一郎氏だった。

私には金融関連の知識が圧倒的に不足しているのだが、安宅産業や
イトマン事件、平和相互銀行事件の処理、銀行の合併の経緯等、
どのような考えの下に最適な判断を下して処理を担当したかの
事実を淡々と綴っているので理解しやすかった。

自慢話でも成功秘話でもないところに好感が持ているし、それぞれの
処理に関しても「誰が悪い」との個人攻撃もなく、自身が引導を渡す
ことにもなった磯田氏に対しても恨みつらみは一切ない。

それが一転して、恨み節とも受け取れぬこともないのが日本郵政の
社長時代の回想だ。

郵政民営化を争点にして解散総選挙を行った小泉政権。衆院選で
圧勝し、当時の小泉純一郎首相からの強い要望もあり日本郵政の
社長に就任した西川氏だったのに逆風が吹きまくる。

かんぽの宿売却問題、東京中央郵便局の再開発問題。あの頃の報道は
「西川が悪い」一色だったし、私もそんな印象を受けていた。

だが、郵政民営化に反対して自民党から出た議員を復党させたこと
で「お前ら、本当は民営化したくないんじゃないか?」となって
行く。

その標的が西川氏であり、急先鋒が当時の総務相だった鳩山邦夫氏だ。
かんぽの宿にしろ、中央郵便局再開発にしろ、邦夫氏のパフォーマン
スだったのかと感じた。それに乗っかった報道を鵜呑みにして、当時は
西川氏を悪役だと思っていたことを謝りたいわ。

高度経済成長、バブル期及びバブル崩壊、平成不況をバンカーとして
生きた人の回想録は、読み物としても大変興味深かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2018年11月24日
読了日 : 2018年11月24日
本棚登録日 : 2018年11月24日

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