「地下鉄サリン事件」自衛隊戦記: 出動部隊指揮官の戦闘記録 (光人社ノンフィクション文庫 878)

著者 :
  • 潮書房光人新社 (2015年2月28日発売)
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1995年3月20日。通勤ラッシュの営団地下鉄(現・東京メトロ)の複数の
路線で未曽有の事件が起きた。

麻原彰晃率いる宗教団体・オウム真理教による地下鉄サリン事件は、
史上初の神経ガスによる無差別テロは、世界にも大きな衝撃をもって
報道された。

この事件の際に駅構内・車両の除染作業に派遣されたのが自衛隊な
のだが、本書は山手線の内側に唯一駐屯する陸上自衛隊第32連隊で
隊員の指揮を執ったのが本書の著者である。

著者自身は市ヶ谷の指揮所にいたので現場には出ていないので、現場
での出来事に関しては実際に除染作業に当たった隊員たちの証言で構
成されている。

当時のことは今も覚えている。特に事件発生の少し前まで利用していた
築地駅周辺が野戦病院のようになっていた上空からの映像は忘れられ
ない。務めていた事務所を辞めてフリーランスの編集者になっていなけれ
ば、もしかしたら私も…と思ったのだもの。

誰も日本国内で神経ガスによるテロが起きるなんて思ってなかったよね。
それでも事件発生直後から「サリンではないか」と見方が一部で出ていた。
けれど、正確な情報はどこも掴んでいなかった。

それは自衛隊も一緒だ。情報が混乱するなかで隊員たちを集め、装備を
整え、自らの命の危険さえあるのに現場に駆け付ける。

サリンが撒かれた車両からサリンが入ったパックを取り除いた営団地下鉄
の職員さんが犠牲者になったように、現場に出動した自衛隊員・警察官・
消防庁職員が残留サリンの犠牲になる可能性も高かったんだよね。

ただ、本書は指揮官であり現場の状況をテレビ画面を通じてしか見ていな
い人の報告書の形式なので緊迫感には欠けるかな。部下たちの命を第一
に考えていることには共感したけれど。

興味深かったのはパトカーに先導された自衛隊車両が緊急走行に慣れて
おらずに迷子になりそうになったこととか、事件後に市谷駐屯地でカナリア
が飼われていたこと。

カナリアを購入するのに自衛隊幹部が「どの予算から出せばいいのか」と
頭を悩ませていたらしい。結局は「消耗品」になったようだけれど。

地下鉄サリン事件後、オウム真理教の上九一色村の施設に警察の一斉
捜索が入ったのだが、その際に自衛隊が計画していた作戦の内容が掲載
されている。実行には移されず「幻の作戦」になったのだが、実行されなく
て本当に良かったと思うわ。

オウム真理教によるこの事件では今でも後遺症を抱えている人たちが多く
いる。なのに、オウム真理教から名を変えた教団の生き残りたちの集団は、
現在でも事件を知らない若い世代を勧誘しているんだよな。

喉元過ぎれば熱さを忘れるじゃないけれど、オウム真理教による一連の
事件も風化させてはいけないと思うわ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月24日
読了日 : 2017年3月25日
本棚登録日 : 2017年8月24日

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